私は仕事ができない。
工場の軽作業、郵便物の仕分け、コンビニ店員、売店のレジ、イベントスタッフ、テーマパークのゲートスタッフ、客室清掃、テストの採点、宿泊施設の受付など、ある程度幅広い職種のアルバイトをしてきたが、どれもうまくいかなかった。
新卒で就職したIT企業でも、社内システムについていくら説明されても全く理解できず、相変わらず何もできなかった。うつ病で休職し、結局3年で退職した。

世の中のほとんどの職種に就けない私が目指したのは、在宅の翻訳業

会社を辞めた後にかかった精神科で、発達障害と診断された。
私は言われたことを言われた通りにできない、人の話が理解できない、動きが遅い、要領が悪い、落ち着きがなくケアレスミスが多い、頭の中で話を組み立てられず順序立てて説明ができない、顔つきも怒っているように見られがちで、他人と良好な関係を保つのが難しいなどの特性がある。
これだけで、私が世の中のほとんどの職種に就けないのが分かるだろう。

唯一、学校の勉強だけはそれなりにできた。一応独学で有名大学に合格しているし、IQは平均より高い方だった。
在宅で1人で黙々とできる翻訳の仕事なら自分の得意分野を活かせると思い、翻訳の通信教育を受けて勉強を始めた。
翻訳の仕事を受注するには、まずはトライアルを受けなければならない。要するに実力テストで、それに合格すれば翻訳者として登録し、晴れて仕事を受注できるようになる。
しかしトライアルの合格基準が厳しく、なかなか合格できなかった。翻訳会社が実施する有料の検定試験もあり、合格すればその翻訳会社に翻訳者として登録できるが、合格率は8%程度となかなか狭き門だ。
そんな中、やっと翻訳クラウドソーシングサイトのトライアルに合格した。

時間とお金を費やして勉強し、頭をフル回転させて得た時給は300円

しかしいざ仕事をすると、とても生活できる金額を稼げそうにはなかった。
最初だから不慣れなのもあるだろうが、時給換算すると300円程度。
これまでそれなりに時間とお金を費やして勉強し、頭をフル回転させて必死で翻訳した結果が時給300円だ。

正直、投げ出したくなった。普通の人なら、これなら普通にバイトした方がマシだと思って辞めてしまうだろう。

だが、時給850円で工場でシールを貼り続けるバイトすらまともに務まらなかった私には、その道はない。あまりの仕事のできなさから、最初は優しかった周りの人たちがどんどん冷たくなり、「この人、頭おかしいんじゃないの」と言わんばかりの目線を向けられるようになるあの感じを思い出すと、割に合わない仕事だろうとやるしかないという気持ちになった。

私の母は「いい大学に行くより資格を取って手に職をつけろ」という考えの人で、高校時代には薬学部や看護学部など医療系の学部を勧めてきた。
母の言うことは理解できる。入学後の勉強や実習はもちろん大変だが、医療系の資格があれば一生食いはぐれることもなく、それなりに給料も高い。専門学校なら受験勉強しなくても学費さえ払えば入学できる。
ただ、ミスが患者の命に関わる医療職は、私には絶対に向いていない。

結局私は、浪人してまで有名大学に入ったものの何も得られず、技能が必要な職とはいえ時給300円で働いている。
自分がコスパの悪い進路を選んでいる自覚はある。しかし、それしか道がなかったのだ。

苦手なことは避けて得意なことを伸ばした結果が、今の私

発達障害の話になると「苦手なことは避けて得意なことを伸ばせばいい」と言う人が必ず現れるが、その結果がこれだ。
私は人と関わりながら仕事をするのがどうしても嫌で、翻訳以外も在宅で1人でできる仕事を模索しているが、現実はどれも厳しい。
ブログをやっているが収益はわずかで、ライターの案件も最初はかなり低い文字単価でのスタートになる。
物販ビジネスにも手を出して、最初はそれなりにうまくいっていたが、アカウント停止になりかけて痛い目を見た。そこまで規模は大きくないとはいえ、数十万円の損失と数十万円分の在庫を抱えてしまいそうな状況になった。

1人でできる仕事といえば他にもあるだろうが、私にとってはどれも難しかった。宅配便の配達員やドライバーをするにも、不注意が多い私は運転ができない。大学時代には客室清掃の仕事をしたことがあるが、テキパキ動けない私は求められるスピードについていけない。

会社員時代に精神科に通院していた時、「会社を辞めても今後まともに働いていける自信がない」という話をすると、精神科医に「それなら工場で働けばいい」と言われたことがある。
普通の人からすれば、工場の仕事は誰にでもできる簡単な仕事だと思われているのだろう。だが私にとっては違った。TOEICで900点を取れても、シールを貼るだけの単純作業ができない人が世の中にはいる。この人は何も分かっていないと思った。

ブログ投稿の時給は0円でも、文章を書くことが好きだから続けたい

私の夢は、自分の好きな文章を書いてそれを仕事にすることだ。
2年程前からnoteにエッセイを投稿しているが、読者も多くはなく、数百時間かけて今のところ時給0円である。
ますます割に合わないのは分かっているが、書くことは本気で好きらしい。これからも私は、時給300円の仕事をしながら夢を追う。

割に合わない仕事を続けられるのは、他でもなく、普通の仕事ができなかった経験があるからだ。
割に合わない仕事で生活しようと思えば、必然的に労働時間が長くなり、余暇に使える時間は少なくなる。人生の時間が仕事で埋められていく。

私にとって、仕事は人生そのものなのだ。