思い返すと子供の頃からずっと、私はひとり遊びの名人だった
「ごめん、今日会社の人と飲んで帰るね」
夫からそのLINEが来た瞬間、私はこどものようにドキドキ、そわそわしてしまう。
さあ今日は何をして遊ぼう?
3つ離れた兄と、共働きの両親のもとで生まれ育った私は、幼い頃から「ひとり遊びの名人」だった。
学校から帰ると、部屋いっぱいに一つの街を作り、お気に入りの人形を喋らせて、色々なストーリーを創作した。飽きたら近所の図書館に行き、本を借りて読みふける。疲れたらお昼寝をして、夕飯の香りで目が覚める。
そんな幼少期を過ごしていたからか、社会人になってから始めたひとり暮らしも比較的楽しく過ごしていた。
大人になってひとり暮らしを満喫。自分は自立した人間だと実感できた
ずっと憧れていたひとり暮らし。
実家からは電車で1時間ほどの距離だったが、生活費のやりくりや毎日のご飯作り、ゴミ出し、戸締りなど全てが自己責任の世界で、何かできることが増えるたびに成長している気がした。
夏にベランダでひとりでお酒をたしなむのも好きだった。当時、線路横の家に住んでいたため、電車の走行音を聞きながらお酒を飲むのが好きだった。
金曜日の夜はひとりで晩酌をした。足りなくなったら近所のコンビニに行き、お酒を買い足す。深夜に外出をしても誰にも怒られないことが嬉しくて、心配されないことが少し寂しく思うこともたまにあった。
初めは頻繁に実家に帰っていた私も、最後の一年は盆暮れ正月にしか帰らなくなっていた。
それほど、ひとり暮らしが性に合っていて、生きやすかったのだ。ひとり暮らしは私が生きていく上で大きな自信に繋がった。
今まで自分は幼く、誰かに守られないと生きていけない人間だと思っていたけど、毎日ちゃんと生活できた。私は自立していたんだ。
夫の帰宅までのひとり時間。結婚するとどうしてひとり遊びをやめるんだろう?
29歳になり、結婚をした。
私も夫もひとり暮らしをしていたため、最初はひとりの時間がないことや、久しぶりの共同生活に少しだけストレスを感じていた。
それも半年も経つと慣れてくる。
何より今日みたいにたまに訪れるひとりだけの時間が私の息抜きとなっている。仕事を急いで切り上げ、お風呂に入り、ご飯を食べる。
夫が帰ってくるまで、あと何時間だろう?
本も読みたいし映画もみたい。そういえば最近SNSで見かけたあれ、気になっていたんだよなあ。ゆっくり調べて吟味したい。ああ、でも黙々と手芸をやるのもいいし、ゲームをやるのもいいな。そうだ!ひとり遊びのお供にあのお茶を飲もう。とっておきの紅茶。
ひとり時間の過ごし方が次々と湧いてくる。わくわくする。
結婚するとなんでひとりで遊ぶことをやめてしまうんだろう?
こんなにやりたいことがたくさんあるのに!
脳内会議はなかなかまとまらない。やりたいことを並べて、手に取ったものから順番に熱中しているとあっという間に夫の帰宅時間。
「ごめんね、急に呼び出されちゃって。まいったよ」
申し訳なさそうに、コンビニで買ってきたスイーツを差し出すほろ酔いの夫。
「しょうがないよ、楽しかった?」
さも寂しかったかのように、スイーツを受け取る私。
「ひとりの時間、何してたの?」
「それは秘密」