春の訪れが怖い。そんなことが未だかつてあっただろうか。
春は良い季節だ。冬とは違って暖かな太陽の光が差し、心地の良い風が頬をかすめ、何か新しいことが起きそうなワクワク感に胸が躍る。この春の特別さが、毎年楽しみで仕方なかった。
新しい季節への期待感よりも、恐怖心の方が勝っている
けれど今年は違う。春が訪れるとはつまり、変化すること。4つある季節の中で、春が1番変化が起こる季節だ。
今の私は、新しい季節への期待感よりも、「今の穏やかな生活に変化がもたらされる」という恐怖心の方が勝っている。春なんか来なくていいし、新しいことなんて始まらなくていい。そう本心は叫んでいる。
復学を決意して、かれこれ1ヶ月が経った2月半ば。来年度から大学に戻るため、復学の手続きを進めなければならなかった。
締め切りは2月28日。A4サイズの、たった1枚の復学届を提出するだけの手続きなのに、まだ終わりそうになかった。
約半年の休学期間。最近になってようやくメンタルが安定した日が多くなり、「心を守るために休んでいるんだ」という認識ができるようになったばかりなのに、もう復学する季節なのかと絶望している。デスクのカレンダーや、スマホの日付表示を見るたびに、嫌な焦燥感が胸を騒がせた。
「復学届を提出しないと」と考えていた矢先、あるSNS投稿を見つけた
「2022年私の宣言」というテーマでエッセイを書いたとき、私はすでに復学を決心したかのような口調で書いたが、実は未だに決心なんかついていなかった。
あのエッセイが掲載されてからも、「大丈夫。私はやれる」という気持ちと「やっぱり怖い」という不安の間で揺らぎ続けている。
自分の気持ちを少しでも奮い立たせるために書いたエッセイだったけど、効果は長続きせず、効き目は微妙。自分で書いた言葉が、自分にすら響かないとはなんて情けない。
もういい加減、復学届を提出しないとやばい。そればかり考えていて気が重かったが、流石に2月も中旬に差し掛かっているしなあ、なんて思っていた矢先、SNS上である投稿を目にした。
「お願いだから、永遠に2月のままでいて。春なんて来なければいいのに」という春から職場の異動が決定した女性の呟きだった。
迫り来る春から逃げたくても、私も彼女も絶望の中進むしかない
私以外にも新しい季節の訪れが怖い人がいたなんて!適切な感情じゃないかもしれないが、仲間が見つかったようで、なんだか嬉しくなった。
まだひとつもいいねがついていない彼女の投稿に、共感の意味を込めてハートを押す。そうか。新しい季節が怖いのは私だけじゃないのか。迫り来る春から逃げたくても、そんなことできない。いくら請うても、永遠に2月の中に閉じこもることなんて不可能だ。私も、彼女も、絶望の中進むしかないのか。
「仕方ない、やるか」そう声に出し、書類にペンを走らせていく。あんなに進まなかったはずなのに、10分ほどで書き終えた。
教授に「復学します」という旨のメールを送らなくては。せっかく動く気になったのだから、この機会を逃してはなるまい。でないと、一生動きたくなくなる。淡々とこなすうちに、急いで送信まで済ませてしまおう。
メールを作成する間、気分転換にと音楽をかけた。自分で作成したプレイリストが終わり、おすすめの曲として流れたのは松任谷由美の「春よ、来い」。秒でスキップした。