文房具が好き。そのなかでも憧れ続けたのは万年筆
文房具が欲しい、と思うのは、いつも人の筆箱を見てだった。
小学生のときは色付きのカラーペンが流行った。中学生のときは、友達の持っている新発売のペンを真似て買った。高校生になってから少しずつ、友達の趣味も多様化していった。デザイン面にこだわる人、シンプル命な人。
私はといえば、まだ自分の好みが分からずに、友達から貸してもらったものの使い心地が良ければ「同じの使ってもいい?」と断りをいれてから購入していた。
文房具が好きかもしれない、と思ったのは、大学生のときだ。
友達と行く東急ハンズで、文房具を見る時間が物足りない。友達はもうガチャガチャコーナーへと向かおうとしている。でも私、まだ手帳も、バインダーも、ノートも筆箱もシャーペンもホッチキスも見てない!と、言えるはずはなかった。だって友達と一緒にいまの時間を過ごしているのだ。
だから日をあらためて、再度ひとりで訪れた。ひとりでまわるには広く、自由な文房具コーナー。
私が憧れてやまないのが万年筆だった。万年筆はインクペンのひとつだ。文豪のイメージだった。
原稿用紙にサラサラとすべらされる万年筆、流れるようなインクの筆致。物書く人間たるもの万年筆の1本は持っておきたい、というのが私の憧れの根だった。
6年越しで選んだ1本。毎日書くために3年日記まで買った
しかし、大切に選びたいと思えば思うほど、選べずにいた。
万年筆はピンからキリまであって、そりゃあ高ければ高いほど美しかったり丈夫だったりもするのだが、身の丈にあった価格帯でもたくさんのメーカーやブランドがあって、見ているだけでもう楽しいのだ。私は悩みに悩んでいる状態さえ愛おしかった、それが万年筆だから。
そうして6年の月日が流れた。さすがに時間が経ち過ぎた。迷っている間に寿命が尽きてしまう。とりあえずの1本でかまわない、愛せる時間があるから。私はえいやと手に取った。
それが、プラチナ万年筆のプレジールとの出会いだった……。
プレジールは、かわいい。ころんとした流線形のフォルム。うちの近所の文具屋にもおいていて、身近なところも親近感がある。そしてお値段が手ごろ。なんて手に取りやすいんだろう!
それから私は毎日プレジールで文字を書いた。万年筆を買ったので3年日記まで買ってしまった。これまで日記が続いたことはないのに、である。
それから……長い時間が経ち、日記は2年目を迎え、プレジールは3本に増えた。他の万年筆はまだ、買えないでいる。
プレジールの特色は、インクが乾きにくいことだ。
万年筆は、ペン先でインクが固まってしまうと、インクがせきとめられて紙まで届かない。だからインクの乾きは天敵だし、適切なメンテナンスが必要だ。
プレジールはふたを閉めておけば、1年は大丈夫だと言われている。ずぼらにはぴったりなのだ。
プレジールに甘やかされてしまった私は、まだ新しい万年筆をお迎えできないでいる。もし新しく迎えた子を傷つけてしまったら……。プレジールと3年日記で少しずつ自信がついてきたとはいえ、大切に使い続けられる、という確信はまだもてないでいるのだ。
さらに深いインクの沼。紙や手帳にもいつか挑戦しようか
3本目のプレジールはインクをいれずに、空のままとってある。プレジールにはあらかじめ、インクをボトルから吸い上げる「コンバータ」という部品が付属している。
文房具界隈には「インク沼」と呼ばれるさらに細分化されたジャンルがあり、はまると抜け出せないと言われている。私はなんと、文房具雑誌のふろくでインクを手に入れてしまったのだった、それも5種類も。
インクが5種類あるのだから、万年筆だってあと4本あっていいし、インクなんていくらあってもいい。紙にこだわりはじめても楽しいだろうし、いつかはカスタム手帳にも挑戦したい。
いくら時間があっても足りないのだ。万年筆とは、文房具とは、趣味とは、永遠なのだ。
ただひたすらに没頭できるひとりの時間は、いくらあっても嬉しいものだ。