約5年勤めた会社を退職。真っ黒だった髪色をピンクに染める

2022年3月1日(火)午前10時40分。車で15分かかる美容室に行く為、アパートの2階にある家の玄関から出た。
昨日まで寒かったはずが、もうすぐ春、ではなくもう春ですね、な陽気である。春はあけぼのと歌った清少納言と、解釈が少しズレるかもしれないが、私も春は空からやってくると思う。空を見上げて思う。

これから美容室に行き、20数年大体真っ黒だった髪をピンクにする、というところだった。何故なら昨日、新卒で約5年勤めた会社を辞め、専業主婦となったから。
しばらく無職だし、というか働くにしても雇用の枠を外れてフリーでやっていこうと決めた。それで髪色をセーブする理由がなくなり、ずっとやってみたかったハイトーン(しかもピンク!)にしようとも決めた。

春と、新しい髪色にワクワクする気持ちを重ねつつ空を眺め、ふと、「有安ちゃんも同じ気持ちだったかもしれない」とかつての推しに対しての気持ちが湧いた。

職場のトイレで泣いた推しの卒業発表。私に引き止める権利はない

2018年1月15日(月)午前。私は職場のトイレでスマホを見ながらこっそり泣いていた。
大学時代からずっと救われてきた推しアイドル、ももいろクローバーZの最推しである、メンバーカラー緑の有安杏果さんが卒業を発表したニュースを見たからである。
有安ちゃん(いちファンとしての普段の呼び方で失礼します)はブログで、普通の女の子の生活が送りたいという想いが強くなったと語った。小さい頃から子役として芸能界で活躍してきた彼女だからこその想い。何にも引き止められなかった。そもそも引き止める権利はない。

有安ちゃんは1週間であっという間にいなくなった。ももクロはその後5月に10周年を迎え、今まで奇跡の5人と言われていたはずが、必然の4人になった。
1人抜けた不安は東京ドームの10周年ライブで全て吹っ飛んで、出だしの有安ちゃんパートがかっこいい曲も、もう別のメンバーが自分のものにしていて泣いた。

しばらく私は、5人のももクロへの未練タラタラで過ごしていた。4人も悪くない、寧ろパワーアップしていて最高。でも5人のももクロの未来も見たかった。有安ちゃんのももクロ人生、ともに歩みたかった。
その後有安ちゃんがソロでの音楽や写真活動を初め、ももクロもまた4人としての最高なアイドル道を爆走するのを見続けて、その未練は消えていった。時間が解決してくれた。

「あなたという存在は別の人じゃ補えない」、推しと重なる自分の姿

2022年2月28日(月)午後7時。小売の本部社員として最後の仕事を終えた後、私は大好きな先輩が働いている店へ向かった。
入社から5年、同期がいない私にとって1個上のその先輩は1番何でも話せる存在で、いつもお世話になっていて、最後に挨拶すると決めていた。

先輩から、いなくなっちゃうの寂しいし不安だよ、この会社は終わりだよという嬉しい言葉を何度もいただいた。だんだんと申し訳なくなって、でも私の後任はすごく優秀な方なので何も問題ないですよ、と返していたら、先輩が真面目な顔で、「私はあなたという存在がいなくなることが悲しいのであって、それは別の人じゃ補えないよ」と言った。

それはかつて私が、有安ちゃんに抱いていた感情だった。
私は有安ちゃんがいなくなることが悲しくて、それは4人のももクロが最高であっても補えない。
あの頃はファン目線でそう思っていたけれど、今の私は、有安ちゃんと同じ立場だった。

新卒で5年の短い間だったけれど、たくさんの社員と仕事をする部署にいてそれなりに頑張っていた為、ありがたいことに先輩だけでなく、多くの方が退職を惜しんでくれた。
とても大好きな会社だったので、自分で決めておいて辞めることが寂しくなる瞬間もたくさんあった。それでも私は、私の目指す未来に近づけるよう、やってみることにした。

当時私は、有安ちゃんがいなくなることだけが悲しくて、5人の未来がなくなることが悲しくて、仕方なかったけれど、未来を決めた有安ちゃんは、何を想っていたのだろう。

新しい未来へ期待が膨らむ今。ようやく推しの卒業に寄り添えた

2022年3月1日(火)午前7時。昨日より30分早く起きて、主人のお弁当を作った。お弁当を作りつつ洗濯物も回し、主人を送り出した後に洗濯物を干した。
辞めるときに、頑張ってたししばらくはゆっくりしなよ、とたくさん声をかけてもらったけれど、ここで怠けたらずっと怠けてしまいそうだったので、しっかりやった。決めていた予定通りに家事は進み、美容室に行く時間になったので外に出て車に乗った。

有安ちゃんは卒業した次の日、何をして何を想い過ごしていたのだろうか。積み重ねてきた時間と大切に別れ、新しい未来に進むワクワク感でいっぱいに、つまり今の私と同じ気持ちになっていたかもしれない。
そう考えたら、4年経ってようやく彼女の卒業に寄り添えた気がした。
卒業した翌日の有安ちゃんと、もし今会えたら。ファンの気持ち悪い妄想だけれど、これまでの大切な思い出と、これから先の話と、心の底からのありがとうを伝えられたら。車を運転しながら、少し泣いた。