中学生の私へ。
学校がすべてじゃありません。良い子じゃなくて良いです。お願いだから無理はしないでください。体がボロボロになるまで、頑張らなくていいです。良い子でいるために自分を犠牲にするのはやめてください。

中学二年生のある朝、突然体が動かなくなった

突然、体がいうことを聞かなくなる感覚を味わったことのある人はいると思う。私が初めてそれを体験したのは中学二年生の時だった。

ある朝、突然体が動かなくなった。動かなくなったというよりは、頭がひどく重く、起き上がれないほどの倦怠感に襲われた。
頭が重いが頭痛とは違う、頭に錘でもつけられたかのような重さ。そして思考がぼやぼやとして何も考えられない。毎日当たり前にできていたことも出来なくなった。体が重くて動きたくない。些細なことでさえ面倒に感じるようになった。

熱でもない限りは学校を休むことは許されない家庭だったので、その状態になっても体を引きずるようにして毎日学校へ行った。それまで続いていた原因不明の腹痛に上乗せされるように体が動かない状態が重なり、ひどい時はしんどくてただ椅子に座って授業を聞いていることさえできなかった。

さすがにおかしいと思って親を説得して学校を休んで病院に行ったものの、整腸薬を処方されて家に帰されただけだった。とくに検査もせず「軽い胃腸炎でしょう」だそうだ。
何ヶ月も続く腹痛がただの胃腸炎?そんな疑念を抱きつつもその日は家に帰った。

病院に行っても変わらない症状。親に責められてしかたなく学校へ

病院に行った次の日、様子を見るために休んだ。さらに次の日になっても体はちっとも良くならなかった。……が、学校に行けない私を見た親の機嫌は悪くなるばかりだった。
「なんで学校に行けないの」
部屋の向こうから明らかに不満の滲んだ声が聞こえた。

「お腹が痛い?お腹が痛いくらいで休む人いないよ。それに病院に行ったけど何もなかったじゃない」
「でも薬飲んだけど良くならないよ。」
「……なんでここにいるの?!いつまでそうしてるつもりなの?!誰がお金払ってると思ってるんだか!」
私の部屋の前で激昂する親の声。私は布団にくるまりながら、声を押し殺して泣いた。詰まった涙で頭がジンジンと痛んだ。
学校に行けない悪い子の私に居場所なんかどこにもなかった。

次の日、私は重い体を引きずるようにして再び学校へ行った。その次の日も、さらに次の日も。それからずっと。

家の中では自分の意思を押し殺してでも良い子でいなくちゃ。少なくとも学校に通える良い子じゃなければ私の居場所はどこにも無くなってしまうという強迫観念に苛まれるようになっていた。

中学を卒業して環境が変わってもあまり良くなることはなく、少し良くなったり悪くなったりを繰り返しながらここまで来てしまった。

今ならわかる。けれども時間は戻らない。親に対する気持ちも

最初の引き金は原因不明の毎日続く腹痛と、積み重なったストレスのせいだったと思う。
体がいうことを聞かなくなるあの現象と、私の体に起きていたさまざまな体調不良の大元を、世間では鬱と呼んでいることを私はここ数年前まで知らなかった。

もしも今の私が、あの頃の私に会えたなら。
まず学校へ行くのを止める。無理をしないように説得する。可能ならあちこちの病院に連れて行ってやりたい。

無理して学校に行き続けた結果、鬱は良くならないまま、しかも一度なると落ち着くまでに時間がかかるようになって、あの頃よりも動けなくなる時間が増えてしまった。
内臓もすでにボロボロだ。こんな状態になる前にどうにかしてやってほしい。

それから学校に行ったことによって無駄な時間を増やさないようにしたい。
中学、高校と無駄な時間を過ごしてしまった。学校にいる時間は終わるまでただぼーっと過ごすだけだった。ぼーっと過ごすだけなら、他の時間に有効活用ができたはずだ。六年もの時間を。

文芸活動を本格的に始めたのは中二になってからとはいえ、中一ですでに始めていた。五、六年もあったら、その時にしか書けないものがもっとたくさん書けただろう。

あれから十年近くになる。私はあの頃のことを、無理やり学校に行かせた両親のことを心のどこかで許せないままここまで来てしまった。両親との仲は良好ではあるものの、今でもあの頃のことは引っかかったままだ。

両親に心療内科、精神科に偏見があったこと、鬱に対する理解がなかったことから起きてしまったことだというのは今の私ならわかる。特に鬱に関しては、体験したことがない人にはわかりにくいものだと思う。

だるいだけとは違う。怠惰でもない。この二つとは違い、あの体がいうことを聞かず、やらなきゃいけないと分かっていても、動きたくても動けない感覚が明らかな身体の異常であることは、鬱病になった人にしかわからないだろう。

生涯、鬱病にかかることなく天寿を全うできるというのがどれだけ幸せなことか。鬱の症状を繰り返すたびにやってくる絶望を知らないなら、知らないままの方が絶対にいい。
だからこの気持ちは言わずに自分の中に留めておくことにしている。わだかまりも、あの頃のことを許せない気持ちも。

改めてあの頃の私へ。
今のあなたは鬱なのだから、もう無理はしなくていい。だから体がボロボロになるほど、体を引きずってまで無理をするのはやめてほしい。
そのかわり、学校以外の選択肢や別の時間の使い方を導き出して、両親に提示してみてほしい。そうすることでどうか未来の私を救ってくれ。