今、私は無職だ。
退職し、給料の出る仕事を失った。
夫の転勤に伴い、県外へ引っ越すことになったからだ。さらに、不妊治療と妊娠が続き、仕事への復帰は遠のいた。
女性特有のライスステージや体調の変化と仕事の両立が、これ程までに難しいとは思っていなかった。

仕事も家事も子育ても。両立していない罪悪感で言い訳ばかり言ってしまう

始めは体力的、時間的に余裕のできた生活にほっとしていた。
けれど、1年、2年と時間が経つにつれ、無職という肩書きに罪悪感が芽生えてくるようになった。

美容院で、お仕事は何をされてるんですか?の質問に「専業主婦です」と答えられず、会社員のふりをしてしまう。
アンケートの職業欄で、"無職"や"その他"に丸を付ける時にチクリと胸が痛む。

体調も人間関係も仕事内容も、何も変わらずお金を稼ぎ続けることができる夫に、つい八つ当たりをしてしまいそうになる。
分かっている。夫は夫で大変なのだ。
仕事をする上で人間関係は切っても切り離せない。ストレスも、自分1人で家族を支える収入を得続けなければならないプレッシャーもあるはすだ。

じゃあ、これから私は働きに出られるだろうか?
たった2、3年でいなくなる、それも手のかかる子供を抱えた主婦を積極的に雇いたがる雇用先は、パートでさえ珍しい。
3月半ばに転勤先が発表になり、4月1日から県外だろうがどこだろうが出勤せねばならない転勤族では、保育園に預けることも難しい。
単身赴任してもらい、子供と2人で残って働き続ける?私1人で仕事をしながら子育てできる?

誰かに聞かれても責められてもいないのに、言い訳ばかり口にする

在宅ワーク、フリーランス、全国どこでも働ける資格職――。
なぜ学生時代にもっと先を見据えて就職活動しておかなかったのだろう。

今から目指す?そんな広告の宣伝文句のようにうまくいくの?子供を抱えながら学校に通って資格を取る?学費はいくらかかる?元を取れる?
調べれば調べるほどに尻込みしてしまう。
コロナ禍じゃなかったら、妊娠中じゃなかったら、子供がいなかったら、親が元気だったら、独身だったら…
踏み出せない言い訳ばかりが頭に浮かび、そんな自分に嫌気がさす。

誰かに聞かれても責められてもいないのに、仕事に就いていない言い訳を口にする私に、夫はいつも不思議そうな顔をする。
「本当に働きたいの?お金に困ってるわけじゃない、ちゃんと生活していけてるよ?」
「周りで共働きしてる人達、みんな大変そうだよ?共働きが主流だからって、そこまでしなきゃいけないの?今幸せじゃないの?俺は今の状態が一番幸せだよ?」

夫の言う通りだ。今の私には、正直、何かやりたい仕事や明確な夢があるわけではない。なのに、この罪悪感はどこからくるのだろう。

子育ても仕事もという先輩方の励ましが、時に重く感じる

自分で稼がない限り自立してるとは言えない。そんな考えがいつも頭の隅にある。
私の母は、ちょうど男女雇用機会均等法が施行されると同時に社会人になった。
結婚して家庭に入って専業主婦なんてダサい、仕事に生きる女が格好いい!男に養ってもらうなんて二級市民よ!という空気の中、仕事に励んできたという。
まだ不妊治療なんて知られておらず、共に仕事に励んできた女性達の中には、妊娠出産の機会を逃してしまう人も少なくなかったようだ。

家庭に入って子育てだけじゃだめ、でも仕事だけでもだめ……私達みたいにならないで!早く子供を産みなさい、でも仕事は絶対に辞めちゃだめ!という先輩方からの励ましが、時に重く感じる。

結局私の母は途中で仕事を辞め、専業主婦になっている。
「人にはね、誰だって思うように働けなくなる時が必ず来るの。妊娠や育児や介護や、自分が病気になる時だってある。何もかもできてる人と比べてどうするの?今あなたがすべきこと、できることは何?」
正論だ。

私はただ、今の状態を選択した自分の判断に自信が持てず、後悔したくないだけなのかもしれない。

アプリで家事をしている時間を"仕事"と名付けてカウントする楽しみ

妊娠出産が労働として認められて、国から給料が支払われたりしないかな。
そんなしょうもないことを考えながら、今日もスマホのアプリでタイマーを設定する。

"仕事"という名前を付けたカテゴリーを作り、カウントする。
アイロンがけ、洗濯物を干す、献立きめ、料理、買い物…いちいちタイマーでカウントし、"働いた"時間を集計する。

"働いた"時間が貯まるとアプリ内でアイテムを購入できる。現実世界では使えない、架空のコインを貯め、草花を買う。
気付けばコインも草花もどんどん貯まり、いつの間にか数本の花の花壇から、森になっていた。

ちょっとこれ、私すごくない?と思いつつ、本物のお金で、本物の花を買えたらな、とも思う。
自慢したいが、「しょうもない。ただのゲームでしょ?暇なの?そんなことする時間があったら……」なんて言われそうで、夫にも誰にも、どんどん大きくなる森のことは話していない。