ワーク・ライフバランス。
今まで一体何度同じ言葉を耳にしただろう。記憶にある限りでは、中学生の頃から言われていた。

家事育児をしながら働き続けられる道ができつつあるのは良いことだ。
でも、共働きで家事も育児もしながら働いている先輩のお母さん達は皆、疲れきって苦しそうだ。

家のことなんてアウトソーシングすればいいでしょう?と言うけれど、現代の日本でそれをやるにはお金がかかりすぎる。

ベビーシッターも家事代行も、私の時給よりずっと高い。
ためらいなく家事育児代行にお金を払えるほどの年収を得ている女性は、今の日本にどれほどいるのだろう。
保育園にすら入れない人が大勢いるのに。

一番皆が幸せになれる方法だと納得した上で、専業主婦になったのに…

産後も働く母親はワーママなんて呼ばれているけれど、ワーパパなんて言葉は聞いたことが無いし、イクメンの反対語もない。

男性側はどうだろう。働く親としての心構えや、1日の効率的なスケジュール、保育園の確保の仕方、職場の人への気遣い、離乳食や手料理の作り置きレシピ、家事の時短の仕方なんて、男性向けの媒体には全く載ってない。

共働きが主流の時代にもかかわらず、夫の2年ごとの県外転勤、双方の親の病気など、私は訳あって専業主婦になった。

結婚当初は共働きで週末に県外の夫の元へ通っていたけれど、半年ほどで限界がきたのだ。

平日の朝、スーパーに買い物に出かけると、清潔なブラウスにパリッとしたジャケットを羽織り、颯爽と仕事に向かう女性達を見かける。
たった数ヶ月前まで、私もあんな風に歩いていたのに。

夫の職場では、既婚や子供のいる女性社員は配慮され、転勤することはない。

その代わりに、男性社員が県内外へ転勤していく。彼らにも各々家庭がある。でも、転勤は強制だ。

平日昼間の隙間時間に働けるパートを探す私を、「大学まで出てそれかよ」と弟が鼻で笑う。

夫婦2人で沢山悩んで、これが一番皆が幸せになれる方法だと納得した上で、専業主婦になったのに。
銀行員や教師としてばりばり働く独身の友人達には、「今どき専業主婦なんて信じられない、もったいない!」と暗い顔をされる。
納得した選択で、今の生活が幸せなはずなのに、時折罪悪感や無力感に苛まれるのはなぜだろう。

「私、消費しかしてない。何も生み出してない」そう嘆く私に、
「消費も大事なことだよ、そうやって社会は回ってくんだよ、家事も仕事。俺とおふくろ達の健康と余裕を生み出してくれてるよ!」と笑ってくれる夫がいる私は、幸せだと思う。

都合のいいように動かされて、都合のいいように評価されて。女なんて損だ

できれば共働きしたいけど、毎朝5時半に起きて深夜に帰ってくる夫に、あなたも家事育児分担してよね、とは言えない。
外で働きたければ、私が1人で仕事に加えて家のことも全部しなければならない。そんな自信は無かった。

経済的な自立が一番大事、結婚でそれが失われるなら、私は結婚なんてしない!家父長制に与せず、誰にも依存しないで1人でもしっかり働いて生きていく!
そう啖呵を切れたら格好いいなと思うけど、私はそんなに強くなれないし、覚悟もできない。

誰かを犠牲にしなければ成り立たないワーク・ライフバランスなんて、くそ食らえだ。
家事も育児も介護も、全部労働だ。給料出なくたって、全部仕事だ。バカにされたくない。

少子化だから子供生め、人手不足だから家庭から出て働け、仕事と家庭の両立を、女性活躍、輝く女性…
都合のいいように動かされて、都合のいいように評価されて。女なんて損だ、女に生まれたのはハズレだ、と何度思ったことだろう。

「あんたはまだ若いからそうやってすぐカリカリするのよ。まだ20代のひよっこだから、いちいち正義感持ってぶつかりたがるのよ。理想と理屈ばっかり振り回してちゃだめ!今は目の前の幸せだけ見てりゃいいのよ!」
と専業主婦歴26年の母は笑う。母は大卒で公的資格も持っている。私もいつか母のように割りきって笑えるようになるのだろうか。

顔色を伺わなくても、自由に法的にきちんと働ける未来に

育休取得できますか?転勤はありますか?産後の職場復帰率は?残業時間はどのくらい?すいませんまだ小さい子供がいるんですが…なんて質問、する必要のない日が、いつか来ることを祈っている。

今は、私は私の場所で、私の思う仕事をする。
給料は出ない。
謝罪することも誉められることもない。
誰にでもできる。評価なんてされない。
キャリアやスキルとして認められない。
時代遅れ、生産性が無いとばかにされる。

それでも、私は今日も朝5時半から、働く。