一生懸命に応援する周囲を眩しく思い、少し遠巻きで見ていた

私には好きな俳優、いわゆる「推し」がいる(好きな俳優は以下、愛着を込めて『キツネ顔さん』と表記する)。そして、私の周りにも「推し」がいる友人が多い。日韓アイドルや俳優、ビジュアル系、YouTuberなどあらゆるジャンルにちらばっている。そして、彼女らは日々、「推し」のニュースに一喜一憂していた。

テレビ出演の話があればインスタグラムのストーリーに載せたり、ドラマの主役に抜擢されたら笑顔で報告してくれた。そして、良からぬニュースにはTwitterで怒りを表明したり愚痴を言ったりしていた。私は、「推し」を一生懸命に応援する彼女たちを眩しく思っていた。また、忙しくも楽しいファン活動なんだろうと少し遠巻きで見ていた。

特に友人の「推し」についての愚痴を聞く度に、どうしてここまで熱狂的になれるのか不思議ささえ感じ、なんとなく冷静に対応していた。なぜなら、キツネ顔さんはこれまで極端な炎上騒動はなかったからだ。ここ最近までは。

「炎上」。信じたいけど、信じきれない思いでいっぱいだった

私は、大学院の研究の気分転換にTwitterでキツネ顔さんの名前を検索した。入力画面に出てきたサジェストに良からぬ内容がちりばめられていた。恐る恐る検索したら、おびただしい数の誹謗中傷がツイートされていた。見てはいけない、見たら余計に傷ついてしまうと思っていても気になってネット記事を検索したり、関連動画を開いたりした。そこには、とても不穏な内容ばかり書かれていた。心臓が冷えきってキュッとなる感覚。私はショックを受けていた。しばらくすれば誹謗中傷の中には容姿や喋り方に対する、人がそう簡単に変えられないものも書かれており、見ていられなくて画面を閉じた。キツネ顔さんはきっと傷ついているだろうな。

SNSに書いてあることが嘘か本当かはわからない。実際に私もSNSでデマを流された経験がある。しかし、火のないところに煙は立たないという言葉もあり、信じたいけど信じきれない思いでいっぱいだった。友人の「推し」の炎上は対岸の火事だと思っていた、しかし、現場での火事でもあったのだ。

私がキツネ顔さんを見つけたきっかけは、恋人に似ておりファッションの参考にしようといった些細なものであった。ドラマや映画をみていくうちに、キツネ顔さんが嫌われ役ばかりのバイプレイヤーから、お茶の間の人気俳優になっていく過程を目撃した。いつしか、彼は一重や奥二重をコンプレックスに思う男性の希望となっていた。キツネ顔さんは悪役ばかりやっているためか、バラエティで楽しそうにはしゃいだり礼儀正しく話している様子のギャップが可愛らしいと感じた。演技力が高く、渋い容姿のため男性からの支持が高いのも魅力だった。

感動したり、新しい趣味を始めたり、充実した日々を送ったのは事実

いつしか、受験期や研究の発表会前にキツネ顔さんの作品を見て気分転換をするようになった。神社のお稲荷さんに願い事をするような感覚で。ご利益があったらまた作品を探し鑑賞した。そして人生で初めてファンクラブに登録した 。私にとって間違いなく楽しい日々であった。

キツネ顔さんに対する情報は嘘か本当かはわからない。実際にデマがそれらしく書かれて広められたこともあるだろう。しかし、キツネ顔さんの作品を見て感動したり、新しい趣味を始めたり、充実した日々を送ったのは事実だ。私はひとまず、嘘か本当かわからないことは放っておいて、キツネ顔さんと作品が生活を美しく彩ってくれた事実にのみ目を向けることにした。そして、「推し」の良からぬ報道に悩む友人の愚痴に対して共感して聞くことに努めた。

私はキツネ顔さんの関係者ではない、ただのしがないファンだ。そのため、直接励ますことは不可能だ。そして直接励ますことが出来たとしてもきっと何の効果も無いだろう。私は、キツネ顔さんの何者でもないから。
私ができることは、ただひたすらにキツネ顔さんの作品を楽しむことだ。もし良い作品があればぜひ周りに勧めてみよう。さて、今日はどの作品を見ようか。そして、キツネ顔さんの次なる作品に期待をしながら日常をすごしていく。