好きな人のことを想いながらチョコレートを作ったのは、後にも先にも高校1年のバレンタインが初めてだったように思う。しかし、そのときのお返しは脈がないことを理解するには十分すぎるものだった。
私は今でもそのときのことを思い出してしまう。

趣味の友達だった彼に惹かれた私。遊んだ翌日から気まずくなり…

高校1年のとき、同じクラスの男子と共通の趣味を通じて仲良くなった。最初は趣味の友達のように接していたが、次第に彼の面白い性格に惹かれていき、彼のことが好きになった。
自分の気持ちを自覚してからも、用事を作って話しかけたり、LINEをしたりしてどうにか関わりを持ち続けようとしていた。

しかし、それはある日を境に終わることとなる。私が彼を遊びに誘ってから、彼の態度が素っ気なくなっていったのだ。正確には遊びに行った翌日からだが。
LINEをしても返信速度は以前よりもずっと遅くなった。ちょうどそのころから彼はクラスの中心にいる人たちと仲良くなり始めたこともあり、教室で話しづらくなった。

仲良くなる前に戻っただけ。
そう自分に言い聞かせた。
幸い、仲のいい友達はいたから話し相手には困らなかったし、席替えで彼の近くの席になったときは向こうから話しかけられることが多かった。
こちらからのLINEには素っ気ないのにも関わらず、向こうからは何もなかったかのように話しかけてくる。その態度にモヤモヤしていたが、見ないふりをしていた。

あわよくば彼にもチョコを。クラス替え前の思い出に渡すことを決意

2月に入り、進級や文理選択のことを考える時期に入った。
一方で、バレンタインを前にそわそわしだすクラスの男子たちも目に入っていた。私が好きな彼はそんな男子たちとは違い、友達と趣味の話に花を咲かせていた。私は友達にチョコレートをあげるつもりで作るお菓子をどうするか考えていたが、あわよくば彼にも渡せたらいいな、くらいには考えていた。

進級しても選択科目の関係で同じクラスになることは不可能だったから、クラス替え前の思い出としてチョコを渡すことに決めた。
作るお菓子はチョコレートタルトにした。
よく作っているお菓子だったし、失敗する確率も低い。よくできたものを渡したい私には適していると思った。

実際、同じものを渡した友達からは美味しいと言ってもらえたし、自分でもよくできたと思った。
当日は何か特別なことを言うわけでもなく、普通に手渡した。
彼は受け取ってくれて、翌日には「美味しかった」とLINEもくれた。
しかし、私は期待しすぎていた。1か月後のホワイトデーに。何を返してくれるのだろうかと図々しくも考えてしまっていた。

「ありがとう」と彼が渡してきたのは200円弱のチョコ

1か月後の3月14日、私は彼が声をかけてくれるのを待っていた。しかし、どれだけ待てども彼は何もアクションを起こしてこない。結局その日は何もなく、教室を後にした。
翌日、お昼を食べている私の元に彼が来てチョコレートを渡してきた。どうやらお返しらしかった。

「ありがとう」と伝えて渡されたものを見てみると、コンビニによく売っている200円弱のチョコレートだった。
たった200円弱のチョコレートで脈なしなのは明白だった。
けれど、好きな人からのお返しは何でも嬉しかった。
それ以来、そのチョコレートをコンビニで買うようになった。

私の価値はその程度だったのかと感じる一方で、自分が買い足したそのチョコレートを食べることで心の充足が得られることも確かだった。
今でもそのチョコレートを見かけるたびにその人のことを思い出してしまう。
私にとって唯一のバレンタインの思い出がこれなのは悲しいが、唯一無二の思い出だ。