ひとりで過ごすのは不得意だと、最近ひしひしと感じている。
夕食後すぐに布団にもぐって寝てしまう。寒いけれど暖房を付けるほどでもないから、とりあえず布団に入って温まろうと思ったが最後。気が付いたら夜の12時を過ぎている。
2時まで寝てしまった時には、後味が悪い。寝ている家族を起こさないように、静かに洗面所に向かい歯を磨く。朝まで寝てしまったときにはもう、最悪な気分。将来の電気代と歯を思う。
いつから、こんな風になってしまったのだろう。

前はひとり時間が上手かったのに、なんでこんな風になったんだろう

中学高校生のときは、呑気に本を読んで過ごしていた。将来のことを真面目に考えなくても良かったし(良くない)、気の向くままに本を読んでいた。ひとりで過ごすのが上手かったと思う。さすがに高校3年生のときは受験で頭がいっぱいだったけれど。

コロナ禍になったときに、知人と夜にラインや電話でやり取りする日々が続いて、夕食後でも起きれるようになった。けれど次第に知人とのやりとりが、億劫に感じるときが増えた。
自分は就職活動を始めなければならない、TOEICの点数を上げなければならない。大学の課題だってまだ終っていない。
なのに、ひとりになって自分の時間を持つとなると、手が付かない。後先考えずに布団にもぐってしまう。なんて自分は怠惰なのだろう。甘ったれているのだろう。朝を迎えて、自分に呆れる。

そんなことを繰り返していたら、いつの間にか大学3年生が終ってしまった。自分は、やるべき事柄から逃げている。
なんでこんな風になってしまったのだろう。

いつもこんな調子だから、就活も卒論も、色んなことが中途半端で手遅れ

いいえ、中学・高校生のときも逃げていただけかもしれない。本を読んで考えているふりをして、本当にすべきこと、自分のそのままの姿と対峙しないで過ごしていたのかもしれない。
もちろん、辛かったり機嫌が悪くなったときに、本に助けを求めるのは本当に、本当に大切だ。けれども、やっぱり、自分はひとりでいることに、ひとりで今の自分を見つめることをあまりしてこなかった。
自分はひとりでいることに耐えられなくなって、布団にすがりついているのだ、きっと。すがりついて、本当にひとりでいる恐怖から逃げようとしている。
恐怖はどこから、やって来るのだろう。

夜にひとりでいることと対峙できなくて、布団にすがって眠りに逃げた自分は、朝目覚めて我に返る。
午前中家で過ごしているときにも、ひとりでいることに耐えられない。昨日は何もしなかった。また歯を磨かずに寝てしまった。電気もつけっぱなしだった。今日はこれから、昨日できなかったことの分を取り戻さなくてはならない。そしたら今日の分はどうなるのだろう。いつもこんな調子だから、もう就活も卒論も、色んなことが中途半端で手遅れだ。恐怖は、中途半端である自分に由来するのだろうか。
そうこう考えるうちに涙が出て来る。布団にすがりつこうとするけれども、もう布団には戻れない。これ以上何かにすがりついたら、自分は何もできない人間になってしまうことは分かっている。でも怖くて動けない。ひとりでいることや、これから先延ばしにして来た事柄に向き合えない。怖いからこそ早く手を付けなきゃいけないのに。

香水は正体の掴めない恐怖で動けない自分を、起き上がらせてくれた

ぐるぐる考えて苦しくなって、部屋を見回した先に目にとまったのは、以前知人からもらった香水だった。
ためらわずに取り、手首に吹きかける。駅前の美容室で使われるシャンプーと似た香りがする。

芸能人がなぜ香水を身に着ける人が多いのか、なぜ多くの種類の柔軟剤が売られているのか、少し分かった気がした。
自分がひとりで立ち上がろうとする手助けを、香水はしてくれる。ひとりにみえるけれど、実は目に見えない何かとなって、香水は正体の掴めない恐怖で動けない自分を、起き上がらせてくれた。
恐怖はおそらく、また感じるだろうし、その正体はまだ曖昧だ。けれど今、香りを身にまとうことで、少しだけひとりでそのままの姿の自分に、対峙しようとできるのであった。