まんまるい黒い目と目があった。
フワフワして、大きくて、あったかい。
暖かく幸せな微睡み。
クリスマスを思う時、優しく守られた、あの幸せな朝を思い出す。

サンタの正体には気づいていた。それでも特別だったクリスマス

もう十数年も昔、寒くなってきた11月の末のこと。
「サンタさんには何を頼むのかなあ」と母は私に尋ねた。毎年この時期お決まりの、楽しい気持ちにならずにはいられない、この質問。

当時私は小学5年生だった。そして大概の同年代の子達と同じ様に、サンタの正体を知っていた。でもみんなと同じように知らない顔をして、母親を通じ、サンタにプレゼントをリクエストする。
知らない顔するのは大人への配慮、ではなく、単純にプレゼントが欲しいからだ。大抵の子供はそうだ。そして親だって「本当は分かってるんじゃないかな」と思いつつもその事には気づかないふりをして、「何お願いする?」と子供に問いかける。
昔から続くこれはそういう楽しいイベントで、優しい騙し合いなのだ。

ただそう知ってはいても、子供心にクリスマスには特別な思いがあった。毎年意味もなくワクワクしたし、心の何処かではクリスマスには特別な魔法があると信じていた。ともすればサンタもいるだろうと思った。いてくれれば嬉しいなと。
サンタの正体なんて知らない顔をしていれば、本当にいるかもしれないという甘い夢もみることができる。そういう曖昧な夢を私は好んだ。しかもクリスマスはそれを許してくれる行事なのだ。

子供の夢を打ち砕くなんて…!詰めが甘いサンタにしょんぼり

クリスマス当日の朝。
私はいつもより少し早く起きてツリーの下に向かった。私の家ではサンタはそこにプレゼントを置くからである。
だかしかし、その朝ツリーの下には何もなかった。

そこに母親が現れて言った。
「あ~、もう少し寝てから起きたら?」
なんて事だろう……!
知っているとはいえ、私のサンタへの甘い夢は早くも砕かれた。全く、子供の夢を易々と砕くうちのサンタの詰めは甘かった。
なんで夜のうちに用意しとかないんだと訴える目で私は母親を見た。私の心もつゆ知らず、母親は平気な顔をしていた。

渋々私は布団に舞い戻った。少しのかなしみを抱えつつも、私は根っから寝付きのいい性分で、すぐに2度目の眠りについた。

幸せな気持ちのまま、眠りについた。起きても夢は覚めなかった

2回目の眠りから覚める頃、私はウトウトしながら、布団の中、隣に何かいる気配を感じた。寝ぼけ眼のまま、隣に手を伸ばした。それは大きくて、フワフワして、茶色くて、まあるい黒い目をしていた。

次の瞬間には、それが何かはっきり分かった。幸せが胸いっぱいに広がった。
それは私がリクエストした「大きいテディベア」だった。
ツリーに駆け寄るまでもなく、この子は私の布団に潜り込んだのだ!!

私は先ほどの悲しみも忘れて、そのテディベアにぎゅっとハグをした。一瞬で私はその子が好きになった。次の瞬間にはその子の名前も決めていた。そして幸せな気持ちのまま、そのまま眠ってしまったのだった。

十数年経った今でも、私はあの時の幸せな気持ちを覚えている。
一緒に眠りについたテディベアのぬくもり。起きてもその夢は続いていたこと。そして私が眠りについている間に布団にプレゼントを忍ばせた、少し間の抜けたサンタのこと。

優しく守られたあの朝はもう二度と訪れはしない。
ただ今でも、暗闇にポッと灯が灯る様に、柔らかいひだまりの様に、私の心をあたためてくれる。