ある日の夕食後、私はテレビで料理研究家・栗原はるみさんのドキュメンタリー番組を見た。
彼女は2019年に亡くなった夫・栗原玲児さんとの思い出を話していた。彼女が料理家の道に進んだきっかけは「僕の帰りを待つだけの女性にならないで」という夫の一言だったそうだ。

自分が暇なときは私を必要とするくせに、彼の言葉は自分勝手すぎる

優しい笑顔で旦那との思い出を懐古する彼女の姿を見て、私は彼女のようになれるだろうかと考え込んだ。
私が栗原はるみさんと同じように、「帰りを待つだけの人にならないで、自分の幸せだと思うことを追いかけてほしい」と交際中の彼から言われたのは数日前のことだった。

自分勝手すぎる――。私は彼の言葉を聞いてすぐにそう思った。
自分が暇を持て余した時には私を必要とするくせに、そうでない時は面倒だから静かにしてほしいと言うのは、都合が良すぎる。それに、夢中になるものを見つけて全力投球している彼から、「君も何かに夢中になって」と言われるのは屈辱だった。
何かに夢中になりたい。誰かを待つのではなく、自分の人生を歩きたい。それを望んでいたのにできなくて一番悔しいのは私自身だ。だから彼の言葉で、私の怒りは頂点に達した。
私は彼に怒りをぶつけた。彼はそれに対してこう言った。
「自分が人生から消えた時に、嘆いているだけになってほしくない。だから僕がいないと幸せではないという環境を作りたくなかった」
私のことを思っての発言だっただろう。しかし、当時の私には言い訳にしか聞こえなかった。

「自分を幸せにするのは自分だけ」。友人の言葉が心に刺さった

怒り狂う私の考えを変えてくれたのは高校の友人だった。彼との別れを相談した私に対して、友人はこう諭した。
「他人に幸せを求めたら苦しいだけ。自分を幸せにするのは自分しかいない。自分の面倒は自分で見なさい」
彼女の言葉は私の心に突き刺さった。私はひとりで過ごす時間を自分が幸せになれるように使っていなかった。彼女の言葉でそのことに気がつき、彼の言葉の真意もようやく理解した。

私はそれ以降、彼の帰りや連絡を待つことをやめた。その代わりに、刺繍をしたり歴史の勉強をしたり、自分が心からわくわくすることに挑戦するようになった。
彼のことは今も変わらず好きだ。デートは定期的にしているし、連絡も取れるときに楽しんでいる。しかし幸せになるのを彼に頼ることをやめようと決意した。
1度きりの自分だけの人生だからこそ、彼といる時間だけが幸せではもったいない。私は「ひとり時間」の楽しみ方を模索することにしたのだ。

他人との関わりだけに幸せを求めず、ひとりの時間を楽しんでほしい

家族や友人、恋人に幸せを求める人は私だけではないだろう。そして相手の反応で傷ついている人も私だけではないと思う。子供に愛を注いだのに、思わぬ反応が返ってきた。好きな人のことを思って行動したのに重いと言われた。そんな経験をした人もいるはずだ。

しかしどんなに親しくても他人は他人。それぞれの人生を生きているから、期待と違う行動をする。だからこそ、他人との関わりの中だけに幸せを求めず、ひとりで生きる時間を最大限楽しんでほしい――。私は同じ境遇で悩む人たちにそう伝えたい。