私の家のリビングにはかめがいる。
私はたいていひとり時間を家のリビングで過ごすのだが、その時必ず一緒にいるのがかめである。
かめを飼い始めて17年。もの心つくころから、ひとり時間には2匹のかめがいた。

マシンガントークをかめにできたことで、ひとりの夜も寂しくなかった

共働きの家庭で育った為、学校から帰ってくるといつもひとりだった。暗い夜、私はかめに話しかけていた。今日あったことや友達について、時には恋の話もした。今思うと、かめもマシンガントークを毎晩されて、困惑していたのではないか。私の親が帰ってくるまでのひとりの夜は、かめのおかげで寂しくなかった。
中学・高校・大学と成長していくにつれて、私は忙しくなり、家に居ることが少なくなった。それでもかわらずかめは家にいた。
社会人になり、幸運なことに自宅近くの職場に配属が決まった。私は再び家にいることが多くなった。

私は休日、かめのいるリビングでひとりの時間を過ごした。
ひとりでいる時、私は水槽の中にいるかめを眺めていることが多い。かめとはあまり触れあえない。かめにベタベタ触ることは、かめにとってあまり良くないようだ。なので、ほぼ水槽にいる姿を眺めている。17年間一緒に生活しているが、懐いてもらっている感覚は無い。でも、親しみは持ってくれていると思う。この程良い距離のある関係が私は好きだ。

17年間一緒に過ごすから分かる、感情表現が豊かな「かめ」のこと

かめと多くの時間を共に過ごし分かったことがある。かめはとても感情表現が豊かな生き物であるということだ。一般的に爬虫類はずっと同じ顔をして動かないイメージがあるが、とんでもない。かめはチャーミングな表情や動きを常にしている。

まず、私が掃除をサボっていると怒っているし、エサをあげるのを忘れていると夕方とても悲しい顔でこちらを見てくる。逆に、朝エサをあげる時はかめにとって日常の一番の楽しみである為、とっても幸せそうである。また、少し家を空けて帰ってくると猛烈に喜んでくれることもある。

面白い光景を目にしたこともある。水槽の隣にはテレビを置いているのだが、かめの好みのタレントがテレビに出ていると、釘付けで画面を見ていた。ビリーズブートキャンプが流行った際、かめは嬉しそうに画面を見つめていた。ボビー隊長が好みだったらしい。私とは趣味が違うなと思った。

かめは本当にユニークで愛らしい。かめたちがいるリビングで過ごすひとり時間が、私のお気に入りなのである。
かめを飼い始めて、爬虫類の可愛さに魅了されてしまった。たぶん飼ってみないと爬虫類の可愛さは分からなかっただろうと思う。
私にとってかめたちは大親友であり、かめたちがいるリビングで過ごす時間が、私にとって愛おしい日常であった。

一緒にいて当たり前の「かめ」と過ごす時間は、かけがえのない時間

昨年、2匹いたうちの1匹が突然亡くなった。いつもリビングにいることが当たり前だと思っていた。寂しくて涙が止まらなかった。そんな悲しみの沼から救ってくれたのは、もう1匹のかめだった。

水槽の前で泣き崩れる私をそっと見守り続けてくれた。特別慰めにきてくれるとかではないが、生きて元気に水槽の中にいてくれるところを眺めるだけで心が救われた。突然のお別れを受け止めきれなかった私の心を癒してくれたかめ。いることが当たり前だと思っていた存在が、かけがえのないものであったことを失って知った。かめと過ごす時間が、より一層愛おしい時間になった。

かめは冬になると変温動物の為、動きが鈍くなる。私としては冬の間寝てばかりいるかめを見ているのも好きだが、やっぱり元気にエサを食べている姿が見たい。
最近、気温が暖かくなりゆっくりとだが動きながらエサ頂戴とアピールをしている。そんな姿を見ると、「もう春だな」と思う。
今日も私はリビングでひとり時間を楽しんでいる。かめに見守られながら。