畑で見つけた子猫。数日後、1匹がいなくなってしまい…

それは、小学6年生の冬休み前のことだった。
家から400mくらい離れたところの畑で、子猫が2匹ちょこちょこじゃれているのを見つけた私は、かわいくてしばらく眺めていた。畑のおばさんがやってきて、私に「この猫ね、お母さんに捨てられてたの」と言って、キャットフードを猫のそばに置いた。2匹の猫はがつがつ食べた。
「うちにはおいてやれないから、野良猫になっちゃうけど、しょうがないよね」
おばさんは悲しそうにつぶやいた。

私は、その日の3か月前くらいに、飼っていた猫を交通事故で亡くしていた。子猫を見ていると、楽しかった猫との思い出が蘇ってきて涙が出そうになった。
「でも、まきちゃんが飼ってくれるかもしれないんよ」
おばさんの声で我に返る。まきちゃんは、私の幼馴染だ。この畑の横に住んでいる。
「それならいいな」
まきちゃんが飼ってくれるなら安心だった。動物が大好きなまきちゃんは面倒見が良くて、いつも優しかった。まきちゃんはハッチという犬を飼っている。ハッチは全然私には懐かなく、会いに行くと毎回吠えられた。だけど飼い主のまきちゃんにはしっぽを振って甘える。
「ハッチ、猫に吠えないかな」
「最初は、吠えるかもね」
おばさんは笑った。

事件はその翌日に起きた。猫が1匹姿を消したというのだ。まきちゃんは泣いていた。
「野良犬に食べられたかもしれない」
泣きながらまきちゃんが話してくれた。
「最近、そのへんにいたでしょ?でっかい野良犬。あれに食べられたかも」
「そんな、もう一匹は?」
「そこにいる」
もう一匹の白に黒のまだら模様の猫は、畑で健気に鳴いていた。
「見つけたら教えて」
「分かった」

私は猫を抱いて家に帰った。いけないこととは分かっていた

3日経っても猫は現れず、まきちゃんも死んだんだと言い始めた。
その日の学校の帰り、私は畑の猫を見つめていた。小さくてかわいくて、ずっと見ていられた。そして、どういうわけか気が付けば私は、猫を腕に抱いて家に帰っていた。いけないことだと頭では分かっているのに私の足は止まらなかった。

家につくと猫はさっそく家中を探索し始めた。その姿を見て、このまま飼ってしまおうと思った。帰ってきた母はびっくりしていた。「なんで猫がいるの?」
私は家の前にいたから入れてあげたと嘘をついた。母は猫を可愛がり、飼うことを許してくれた。
でもこのまま、まきちゃんに黙っていると、まきちゃんを裏切ることになる。私は猫と暮らせる喜びとまきちゃんに何も言わず猫を連れてきたことへの罪悪感で胸がいっぱいになった。

それから2日後、まきちゃんに猫がいなくなったと言われた。私はなぜだか言えなかった。うちで暮らしてるって、のどの奥につっかえて言えなかった。
数日たつとまた、まきちゃんは猫は死んだんだと言い始めた。それでも私は本当のことを言えなかった。

やっと本当のことを言えた。涙があふれて止まらなかった

1か月ほどたったある日、私は家の窓際で猫と遊んでいた。すると、まきちゃんのお母さんが家の前を通りかかった。見られた。咄嗟に私は猫を抱えカーテンを閉めて部屋の中に逃げ込んだ。
本当のことをちゃんと言わなきゃ、そう決心がついたその日の夕方、まきちゃんのお母さんが家に来て、「猫を飼うのはいいけど、うちの子がずっと探しているの。元気だって言ってあげて」と優しく諭してくれた。

なんで黙ってたんだろう、早く言えばよかった。頭の中で考えがぐるぐる回る。
次の日、ようやくまきちゃんに本当のことを言えた。まきちゃんは笑っていた。
「よかったー、生きてて!もう、初めから言ってくれればよかったのに」
初めから言えばよかった。涙があふれて止まらなかった。
「本当にごめんね」
やっと言えてすごくほっとした。

今考えてもなんであの時黙って猫を持って行ってしまったのか自分でも分からないが、友達を裏切ってしまった自分を恥じている。そしてたまに思い出して申し訳ない気持ちになる。
まきちゃんとは今でも友達だ。