峯岸みなみ「愛猫のワクチン接種の帰り道。涙が止まらなかったそのワケは」
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
前々からペットとの暮らしに憧れがあった。
とはいえ、多い時は週に4回飲みに行っていた私には到底無理な話であったし、自分のことも満足にできない人間が動物を育てられるわけがないと諦めていた。そんな私が禁酒を始めて、それなりに人間らしい生活を送るようになった頃、友達の家で猫と触れ合う機会が重なり、普段は勝手に生活をし、たまーに擦り寄ってくる、そんなバランスの取れた愛らしさに魅了された。急にスイッチが入り、夜な夜な理想の猫ちゃんをブリーダーさんのサイトで探し、昔ひどかったアレルギーもそこまで重いものではないことを検査で確認。結局、小嶋陽菜から送られてきた1匹の子猫の色、お顔立ち、理想通りと言える姿に、一目惚れをしてその子と共に生活をする準備を整えた。
2020年、10月10日。9年前、元メンバーの高橋みなみが猫アレルギーの私に相談なく猫を飼ったことを理由に、一方的に怒って喧嘩をした「ヤバイ女」こと私、峯岸みなみの家に子猫がやってきた。
お鼻とお口の鮮やかなピンクと、ベージュのフワフワな毛が綺麗なその子を「しゃけ茶漬け」と名付け、初めての二人暮らしが始まった。朝起きてエサを与え、うんちの片付けをして、名残惜しく仕事に出かけ、帰ってから一緒に遊び、夜は2人でベッドで眠る。私がいなくては生きていけない可愛いが過ぎる生き物の存在は私の生活リズムを正し、豊かにしてくれた。
しゃけに釣られ友達が頻繁に家に遊びに来てくれるようになり、この生活の素晴らしさにもっと早く気づけていれば、私の人生は幾らか違うものになっていたのではないかと思うほどだった。まぁ、あの飲んだくれの日々がなければこの事にも気づけなかったんだけど。
今日は産まれて2回目のワクチンの日。1回目はお迎えをする前にブリーダーさんが済ませてくれていたので、母である私にとっては初めてのワクチンの日。「大事な我が子が痛い思いをするんだ」「病院で暴れたらどうしよう」と、前日の夜からドキドキしていた。仕事を終えて帰宅し、しゃけをキャリーバッグに入れて、タクシーに乗った。キョロキョロしながらたまにか細い声でミャーと鳴く姿に何度も「大丈夫だよ〜」と声をかける。バッグのフタを少し開けて手を入れてみると、勢いよく手に頬を擦り付けてくる。不安が伝わってきて胸が痛いのと、頼りにされている気がして少し嬉しかった。
猫飼いの先輩が紹介してくれたペットクリニックのお医者さんたちはとても親切で「しゃけちゃん可愛いねぇ。いい子だねぇ」と声をかけながら、あっというまに注射を終わらせた。しゃけは暴れることも鳴くこともせず、ボーッと一点を見つめ、最後までお行儀よくしてくれていた。私に似て、メンタルは強いらしい。
帰りのタクシーの中、静かに街を眺めるしゃけを見ていたら、「頑張ったね」という気持ちと、「ずっと元気でいてね」と言う気持ちが溢れて鼻の奥がツンとした。
お医者さんにワクチン注射を足に打つ理由を聞かされたことも原因のひとつだろう。ごくごく稀に、注射を打ったところがしこりになることがあり、それがガンのようなものになると最悪の場合、命を落とす危険もあるらしい。その箇所が足であれば切断することで命は助けられるという話だった。穏やかな空気を持つ先生から発せられるショッキングな言葉は、命と共に生きることがどういうことなのか、私に教えてくれている気がした。
夕方5時のチャイムがさらに感傷的にさせ、私はポロポロと泣いていた。それはしゃけを思う母のような気持ちであり、同じように、いや、それ以上に私を思ってくれているであろう母の気持ちに思いを馳せての涙だということに気づくまでに時間はかからなかった。
「身体には気をつけてね」
今まで何度も聞いた何気ない母の言葉を思い出す。元気で過ごしてくれること、悲しい思いをせずに毎日幸せでいてくれること。見返りなんて少しも求めず、ただそれだけを願う気持ち。そう考えると、私は何度、母につらい思いをさせてきたのだろう。
私が身体を壊した時、AKBの活動で悩み苦しむ姿を見守る時、そして、坊主にした時……
8年前のあの日、週刊誌に載るという報せを電話でしてからというもの、母は私からの突然の電話に怯えるようになってしまった。ちょっとした用事で電話をかけると、「……なに?またなにかあったの?」と深刻な声で聞いてくる。
本来なら嬉しいはずの離れた娘からの電話でそんな気持ちにさせてしまうなんて、私は親不孝だなぁ。
女子メンタルの放送を観て、笑うんじゃなくて泣いてしまった母。このコラムだけは「本当にママの子なの?」って文章を褒めてくれる母を元気なうちにあと何回喜ばせることができるだろうか。
できればテレビで沢山活躍する姿を見せてあげたい。例えばCMに出演することができたら、主演でお芝居をすることができたら、お金持ちになったら、母を笑顔にすることができるかもしれない。もしそのどれもが叶わなくても、身体にだけは気をつけて、たまには実家に顔を出そう。コロナで気軽に会いにいけなくなってしまった今だから、沢山電話をかけよう。私からの電話を嬉しい記憶に塗り替えられるように。
◇放送時間:木曜日21:00-21:30
◇出演者:峯岸みなみ(AKB48)
AKB48の1期生で、朝日新聞の女性向けWEBコラムサイト「かがみよかがみ」内でコラム連載を持つ峯岸みなみの新番組がスタート!アイドルとして15年の活動を経て、30歳という年齢が見えてきた一人の女性としてリスナーと本音で向き合う30分の番組です。一日の終わりくらいちょっと褒められたい。そんな思いを共有しませんか?
AKB48の最後の一期生で、アイドル歴14年の峯岸みなみさん。新型コロナの影響で卒業が延期となり、アイドル“留年”中のいま「かがみよかがみ」でコラムニストデビュー!「他人に褒められることをモチベーションに生きてきた」というアイドル時代を振り返りながら “宿題”に向き合います。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
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