おととしの冬、ひとり暮らしを始めた。
コロナの影響で仕事は基本的に在宅勤務となり、父も在宅勤務になったことで家族との距離が近づきすぎてしまい、仲良く付き合うことが難しくなっていった。25歳までには実家を出たいな、と以前から漠然と考えていたこともあり、実家と会社のちょうど間に住むことに決めた。

彼を見送ったあと、ホッとする自分。もう彼は自分に必要ないのかも

ひとり暮らしを始めた当初は、家でひとり自由に過ごすことの楽しさ、仕事に集中できる嬉しさもあったが、それ以上にひとりで過ごすことの寂しさを感じていた。
毎週のように実家に帰ってご飯を食べ、日曜の夜には当時の恋人に泊まりに来てもらい、月、火、と私の家から出社してもらった。

今思えばあの頃の私は、「誰かと一緒にいること」に依存していた。心の寂しさは自分で埋めるものではなく、他人に埋めてもらうものだと、無意識に思っていた。

気持ちが変わってきたのは、ひとり暮らしを始めて4ヶ月が経った頃だった。
恋人との外食中に言われた言葉でとても傷つき、もう何を言っても意味がないなと思った私は、なにも反論しないまま一緒に自分の家へ帰った。翌朝、仕事へ行く彼を見送ったあと、とてもホッとしている自分に気がついた。

あれ、ひとりでいるとなんだか安心する。
もしかして、もうこの人は自分には必要ないんじゃないか。

就活で出会った彼は、友人に話せば「やめなよ」と言われるような人だった。ほとんど恋愛経験のなかった私にとって彼の存在は、恋人がいる自分は幸せで満ち足りているとアピールするための、人生における重要な登場人物だった。彼の言動に傷つき続けている自分の心に何重にも蓋をして、友人の前では幸せなふりをし続けていた。

彼と別れて自分を大切にすることで、可視化された本当に大切な人

もう自分の心に嘘をつくのはやめようと決め、とうとう別れを切り出した。
当時はわからなかったが今言えるのは、彼もまた「見下して傷つけることができる存在」である私に執着し、またそれを愛だと信じて疑っていないような人だったということだ。別れるのは本当に大変で、私も何度も許してしまいそうになったが、なんとか断ち切ることができた。

彼と別れてから、後悔はしなかったが心の寂しさが加速した。週末はよりいっそう実家に依存するようになり、片っ端から友達に連絡を取って会ってもらった。
そうしてたくさんの友達と久しぶりに会って話すなかで、新たに気が付いたことがあった。
友人のなかにも、別れた彼のような人がいたのだ。
つまり、私と仲良くしたいといいながら、無意識に、私を見下したり、傷つけるようなことを言う人。私は今まで、自分のことを本当に大切には思ってくれていない友人のことも、自分から誘って遊んでいたのだ。
彼と別れ、自分を大切にできるようになったおかげで、大切にしてくれる人のことが見極められるようになった。

ずっと一緒にいた恋人と離れられた私にもう怖いものはなかった。
もう会う必要がないと感じた友人の連絡先は削除し、私を尊重してくれる友人だけを残した。選択肢が減ったことで本当に大事な相手だけが可視化され、誰と遊んでも嫌な気持ちになったりモヤモヤしたりすることが一切なくなった。

人間関係の断捨離が済んだ私は、自分のための時間に習い事を始めた

また、芋づる式に、家族との関係にも変化が起きてきた。
毎週末実家に帰るなかで、家族にも否定的なことを言われる場合があることに気が付いてきた。私が何をやっても、うまくいかなかったほうに着目され、せせら笑われることがあるのだ。とは言え、褒めてもらった記憶の方がずっと多く、両親に感謝はしているが、今自分の心が傷ついたな、と冷静に考えられるようになったのは私にとって大きな成長だと思っている。
今は帰省を月1回程度にして、仲良くいられる距離感を模索している最中だ。

人間関係の断捨離が済んだ私は、いつの間にかひとりの時間を寂しいと感じなくなっていた。むしろ、自分のためだけに時間もお金も思い切り使う楽しさを知り、去年の夏から習い事を始めた。中学生の頃から大好きな、K-POPのダンス教室だ。
通い始めて間もない頃、とあるアイドルのグッズを持っていると、中学生の女の子が話しかけてくれ、毎週おしゃべりするような仲になった。
不要な人間関係を手放したことで、思いもよらない新たな出会いをつかむことができたのだ。

現状を手放したとしても、新しい素敵なものに巡り合える

今までは変化することが怖く、ずっと現状維持がいいと思っていた。
でも、行く場所も、持つものも、着るものも、関わる人も、人生に合わせて自分で選んでいいのだと知った。たとえ手放したとしても、新しい素敵なものに巡り合える期待をもって生きられるようになった。

今も実家に住んでいたら、孤独を他人に埋めてもらうことしか知らないまま、私の人生こんなもんか、と半ば諦めながら、大切にしてくれない恋人と同棲し、結婚し、親離れもできないまま生きていたかもしれない。
今はパートナーもいなく、ひとりで生きていくことも視野に入れつつあるが、新たな場所に行けば、まだ見ぬ誰かと出会えるかもしれない、というワクワク感を持っている。