欲しかった変身ロボットは買ってもらえなかったクリスマス

「これは男の子のだから」
浮足立つクリスマスの喧騒の中、トイザらスで「なんでも好きなおもちゃを買っていいよ」と家族に促され、「これがいい」と手に取った自分の背丈よりも少し大きい箱。
すると家族は少し顔をしかめてそう制し、「あっちにかわいいぬいぐるみがあるよ」と促した。
私は「これがいい」と我儘を貫き通したかったけれど、結局その箱は棚へと戻され、後ろ髪を引かれる思いで振り返ると、同い年位の男の子がそれを手にレジへと向かっていく姿が目に映った。
その箱は、男の子向けのスーパーヒーローの変身ロボットだった。

私は日曜日の朝に放送されている「〇〇レンジャー」や「仮面ライダー」といった特撮ヒーローものが大好きな子供だった。
かといってヒーロー物の後に放送されている魔法を題材とした女児向けアニメを見なかったわけではない。どちらも好きだった。
どちらにもどちらの良さがあった。ヒーロー物は怪人を倒したり、大きなロボットが合体したりして格好いいし、魔法少女アニメは私もこんな風に魔法を使えたらいいなと想像心をくすぐられて、どちらがいいかなんて選べない。
けれども家族は私がヒーロー物に夢中になっていると不安そうな顔をする。女児向けアニメごっこを幼稚園で行う時やる役は、固定ではなく主人公は日によって交代だった。
けれど男の子が主催のヒーロー物に混ぜてもらうと私にあてがわれる役は、いつだってピンク一択だった。

ピンクも戦えるけれど、でも決して前線に出ていくタイプではない。男所帯に華を添えるようなポジション。前線で怪人を倒す役がやりたい。
「レッドか、ダメならブルーがいい」
そう主張するものの、「駄目だよ、女子はピンクじゃなきゃ」「そうだよ、レッドとブルーは男だろ」と言われ、幼稚園を卒園するまで結局私は万年〇〇ピンクだった。

それは私が女の子のせいだ。女の子はピンク以外にはなれず、そして強くもない。
けれども別に男の子になりたいわけじゃない。でもピンクで居続けるのも嫌だった。
私はそのせいか、なんとなくピンク色という色自体も好きではなくなってしまった。なんとなく「レッドやブルーを選べない女の子が押し付けられる色だ」と、ピンク色に罪はなくとも印象づいてしまったせいだ。

「イケメン俳優目当て」と噓の宣言をして、ヒーローと再会

成長するにつれてヒーローとの距離は少しずつ遠ざかった。
それは「女の子だからヒーロー物を好きなのは変」という固定概念に飲まれてしまったのに加えて、「ヒーロー物は子供のもの」という価値観に心を突き刺されてしまったからだ。

アニメやヒーローはせいぜい小学校低学年まで、高学年になったら男の子はゲーム、女の子はジャニーズやドラマ……と好きになるべきもののレールが決まってしまっている。
誰ももう、男の子でさえも、ヒーロー物など見ていなかった。
私はかつてピンク一択だったもやもやを解消出来ぬまま、中学生になった。

するとクラスの中にヒーロー物が好きだという子がいて仲良くなった。けれども彼女が好きなのはヒーローはヒーローでも変身前のイケメン俳優を目当てに、日曜日の朝に心弾ませ早起きしていた。
私は変身後のヒーロー姿が好きだったけれど、周りが皆やれ嵐だ関ジャニ∞だに黄色い歓声を上げる中で「〇〇レンジャーが好き」というと変な目で見られてしまう。
かつて女児だった頃ピンクにならなければその世界に飛び込めなかったのと同様に、女児から少女になると「イケメン俳優好き」という通行手形がないとその世界を好きだと胸を張って言えない。

彼女の存在にその手があったかと思い、「イケメン俳優目当てだ」と宣言しヒーロー物との再会を果たした。だが正直ヒーローとしての存在が好きなのであって、放送終了後に「今注目の若手イケメン俳優」としてワイドショーで騒がれていても、一年間手に汗握って応援してきたヒーローと同一人物として認識できぬことも多々あったけれど。
でもそれでも再びヒーローを堂々と見られるだけで幸せだった。
そしてそれ以降、大人になっても未だに卒業できずにいる。

ピンクのヒーローが登場する時代に。いつか女の子のレッドも?

昨年の戦隊ものは従来主人公はレッドと決まっているのが覆され、白を基調としたデザインだった。ピンクは当然女性で、「まあ女の子はどうせピンクなんだよな、仕方がない」と諦めつつ、白が主人公なんて新しいなと思った。
そしてなんと今年の戦隊物はなんとシリーズ46作目にして初めての男性がピンク。
それも歴代のヒーローに変身できるという機能があるので、男性でありながら歴代のピンク(無論みんな女性)の姿に変身できるというものだ。

スーパーヒーローの特集が組まれた雑誌で、男性ピンクを起用した新しいスーパー戦隊を手掛けるプロデューサーが「『ピンク=女性』のイメージを覆しつつ、『ピンク=男性』の鉱脈を掘っていければいい」「数年後のスーパー戦隊にはLGBTQのメンバーがいるかもしれませんね」と語っているのを目にした時、私の心に長年つっかえていたものが消え、胸が軽くなるのが分かった。

きっと私が女児だった頃から20年近く経った今でも、男の子になりたいわけじゃないけれど、ピンクにしかなれず、けれどもヒーローごっこをしたいからピンクに甘んじていた子がいるだろう、けれどもこれからはそんな思いをする子はいなくなるかもしれない。
そう思うと、長年身に着けるのに躊躇っていたピンクも悪くない色に思えた。
私には女の子だからとピンクだけ当てがわられていたから、ピンクが嫌だったのだ。
でもこれからは、女の子だからとピンク一択ではなくなるかもしれない。
今年は男性がピンク。もしかしたらいずれ女の子がレッドになる日も近いかもしれない。

生まれて初めてピンク色のスカートを買った。子供がいる訳ではないのにヒーロー物を好きだなんておかしいかもしれない。けれどスーパーで誰に見られているわけでもないのにこっそりと買い物かごにヒーロー物の食玩をいれた。

男の子になりたいわけじゃなかったけれど、ピンクにもなりたくなかった私はまだヒーロー物を卒業出来ず、むしろ卒業なんてしなくていいんじゃないかと、一生日曜日の朝を誰よりも心待ちにしている。