自分に合わないと分かっていたのに、ピンクの財布を選んだ

ピンク。この色のものを身に付けると、なぜかその色を必要以上に意識してしまう。自分でも不思議だと思う。だが、それはきっと、ピンクという色が私には合わないからだと思う。そう分かっていて、あえてピンク色の財布を選んだ自分は、合わないながらも、合うようになりたいと思ったからだろうか。そのことについて、書いてみよう。
それまで使用していた、ベージュの財布が古くなったので、新しい財布を買おうと決めていた。ネットで「財布 レディース」と調べれば、ありとあらゆる種類の財布が出てくる。サイズ、色、形、値段。その中で、私はそれまで買ったことのないピンクの(それはかなり色は薄いが、間違いなくピンクだ)財布を選んだ。特に深い理由はない。第一印象で、何となく、これだ、と思ったからだ。
よくある話かもしれないが、新しい物を買い、それを身に付けると、なぜか自分自身が変わったような錯覚に陥ることがある。ちょっと良い値段のものを買うと、なぜか自分の品が上がったような気持ちになる。それの延長に、ピンクのものを身に付ければ、女性としての意識が変わると少し思って、この色を選んだのかもしれない。

いつか愛着が湧くと思ったが、そうでもない。カバンの中で異物のまま

次の日から、新しいピンク色の財布をカバンに入れ、買い物に出かける。どうだろう。何となく、しっくり来ない。最初のうちは、慣れないせいだろうと思っていた。
しかし、その、ピンク色の財布をカバンから出すたびに、なぜか、へんに「女性」を意識してしまっているような気がした。無意識のうちに。すると、「レジの店員からどう思われているのだろう。」とか、妙に気になってしまい、ピンク色の財布を選んだことを後悔することが増えていった。職場で財布をカバンから出す時も、なぜか隠すようにカバンから財布を取り出すようになった。それは、その、ピンク色を見られたくないからだ。もっと、無難な色にしておけば良かったのだろうか。しばらく使えば、愛着も湧くだろうと思うのだが、そうでもない。何となく、いつまでも、自分のカバンの中で、よそもののような異物が混ざっている気がしてならない。今もなお。そして、ピンク色が似合うような女性になりたいと、そもそも思っていないことに気付いた。

ピンクは自分の中に取り入れる色ではなく、外から見る色

「ピンク」という色は絶大な力を持っている。ピンク=女性、特に、華やかで、かわいくて、おしゃれで、といったように、ピンク色に紐づけられる単語はどれも、女性らしさを強調するようなものばかりだ。「女性らしくなりたくない」というわけではないが、女性ならば例外なくピンクが似合うというわけではない。自分にはピンクに関連してくる、その周囲にある単語とやらが、やはり、合わない気がする。だからきっと、このピンク色の財布に、いつまでも違和感を抱くのだろうと思う。
それでも、春になると咲くピンク色の桜は、年を重ねるごとに、美しいと思うし、春の象徴として、見るだけで気持ちが明るくなる。だから、私は、ピンク色が嫌いなわけではない。ただそれは、自分の中に取り入れる色ではなく、外から見る色として存在し、その距離から見る色なのかもしれない。
色についてこんなに深く考えることはそうめったにないが、ピンク色というテーマで考えてみると、自分が自分の中に取り入れるものではないという、新しい発見があった。だから、こうやって書くことをやめられないのだろう。
次に買う財布は間違いなく、ピンク色にはしない。それでも、ある程度の値段のした財布なので、しばらくは今のピンク色の財布を使い続けるだろう。そのうち、ひょっとしたら、この「ピンク色」との距離感も変わってくるかもしれない。それはそれでちょっと楽しみなので、今はこの財布をカバンに入れている。