小2から飼っている憂鬱虫はカラフルな景色をモノクロに変えてしまう

憂鬱虫。こんな厄介な虫を私は小学2年生の頃から飼っている。
初めてその存在に気がついたのは小学校のプールの時間だった。当時私は水の中に潜ることが大好きで、夏休みには毎日学校のプールに通い、水の中に潜ってはまるでえら呼吸する魚のごとく生き生きとしていた。

毎日が楽しくてキラキラ輝いている、どこにでもいる小学生だった。
そんな私が楽しみのプールの時間、それは着替えをしている時だった。いきなり得体の知れない何かが、私の心の全てを真っ黒に染めていくそんな気持ちを覚えた。
一瞬にして楽しみにしていたプールも忘れ、ニコニコと話していた友達との会話も笑顔で話せなくなり、真っ暗な世界に突き落とされたような感じがした。そして、全てが憂鬱に感じるのだ。これが憂鬱虫だ。
その日から憂鬱虫は頻繁に顔を見せるようになった。憂鬱虫が現れるとその度にカラフルな景色がモノクロになるのを感じた。
憂鬱虫は私の意志とは関係なしにいきなり訪れる。学校の授業中、友達との会話中なんかに現れた時は最悪だ。なんとか笑顔を繕うが心の中は真っ黒で憂鬱な気持ちでいっぱいだった。

高校を卒業して上京し東京の大学に入り、田舎を離れたことも影響し、だいぶ憂鬱虫は出てこなくなった。
もう憂鬱虫に掻き回されなくてすむ、そう思っていた矢先のことだった。代わりに訪れたのが鬱虫だった。

また訪れた憂鬱虫は、私の心の中をどんどん埋め尽くしていった

うまくいかない就職活動と生活費を稼ぐためのアルバイトの両立、いっぱいいっぱいの毎日を送っていた私は、ある日ストーカーに遭い心が壊れた。
鬱虫は憂鬱虫よりタチが悪く私の心の奥底をずっと蝕んでいくように感じた。結論からいうと、私の就職活動は無事に終わったものの、鬱病が酷く、1ヶ月で仕事を辞めて実家に引き上げることになった。

鬱虫はとても厄介だった。食事を摂っては戻し、その繰り返し。過呼吸になることもしょっちゅう。夜は1〜2時間しか眠れず、一日中頭が働かず、体はフラフラ。けれどもなによりも常に鬱虫が私の心を埋め尽くしているのがしんどくてたまらなかった。
鬱虫から逃げたくて逃げたくてお酒に溺れた。けれどもやっぱり私の体には鬱虫が居座っていた。常に死にたいと言う気持ちが身体中いっぱいに広がっていた。
年老いていく両親の脛を齧りながら生きていく日々。毎日大量の睡眠薬とお酒を飲んで少しでも長く寝ようとしていた。寝ている時だけが鬱虫から逃げる事のできる唯一の手段だった。
こんな現実が情けなくてたまらなかったが何も考えないようにしていた、そうしないと死んでしまいそうな気がしたから。

夢を見させてくれる彼らと出会った代償は、あまりにも辛い現実で

けれどそんなある日、暇つぶしにみていた動画サイトで一組のアイドルグループと出会った。その出会いは私に大きな影響を与えた。

海の向こうのアイドルは私にとってひたすら眩しく、一日のほとんどをベッドで寝て過ごす私と対照的に、毎日忙しくスケジュールをこなしていく彼ら。雲泥の差を感じた。けれどもそれ以上に自分がアイドルグループにのめり込んでいくのを感じた。
しかしアイドルに入れ込むのと比例して鬱虫も私の心を蝕んでいくのを感じた。アイドルの世界に浸っている時はとても幸せで、何もかも忘れられる気がした。けれども現実の世界に戻ってくると最悪だ。

キラキラしたアイドル達は私に生きろとメッセージを伝えてきた。しかし現実は生きたくなんてない私。生きる価値のない私。どうにもならない情けない現状、私の体を侵食していく憂鬱虫。夢を見させてくれる分の代償がこれだとしたらあまりにも辛すぎた。
私は思った、いっその事知らなければよかった。出会わなければ、アイドルの世界を知らなければここまで己がこんなにも惨めで、社会から全く必要とされてない人間だと気がつくこともなかった。ただ死にたいと思っていた言葉がいつしか、私なんか死んでしまえばいいのに、へと変わっていった。

あぁ、笑顔と夢と希望を与えてくれるはずのアイドルが、無情にも私に現実と向き合わせることになるとは。出会わなければ知ることもなかっただろうに。知りたくなんかなかった、
そう思いながら今日も私はアイドルの動画を見るのであった。