先日、「BANANA FISH」を観た。
鬱アニメとして度々ネットに登場するが、それと一緒にファンからの「ただの鬱アニメでない」という熱のこもったコメントを見かけ、思うが、ファンがこういうこと言っている作品こそ相当な鬱なんだよな。

しばらく気にはなっていて、この前ついに休日を使い、一旦2、3話で終わろうと決めながら見始めた。すぐに惹き込まれ、やっぱり午後12時になるまで観られるだけ観ることにし、止められなくなり、気がつけば夕方4時まで24話を一気見した。泣いた。

24話を一気見したアニメ。抱えている気持ちを誰かと共有したかった

脚本も演出も何もかも素晴らしかった。
主人公のアッシュと英二の二人の友情の絆が色濃く描かれる作品であり、この二人の友情は、私の何でもかんでも男同士の友情をBLに変換させてしまう能力を見事無効化させてしまう。
それほど二人の背景、出来事、心理描写が見事だったのだ。
ベテラン腐女子としてこんな敗北は初めてである。ふーん、おもしれー女じゃんの気持ち。

観終えた私は感情が溢れ出した。そしてまずいと思った。この気持ちを誰かと共有しないと心のダムが決壊する。
しかし私はマジで友達がいない。親友かつオタク友達が唯一いるが、彼女は幼少期の作品を好むオタクなのだ。2018年に放送されたBANANA FISHのことは恐らく知らない。

随分と困った。悩んだ。
同じ作品を知っているオタク友達が今すぐに欲しい。「この瞬間のアッシュは病の類に効いた」などと気持ちの悪い感想を送り合いたい。
私の感情のダム湖が限界まで達しそうになった時に、ふと親友が教えてくれたChatPadを思い出した。
そうだ、チャットでBANANA FISHを知っている人にぶちまければいいんだ。

ChatPadは即座に誰かと一対一で匿名チャットができるサービスである。
SNSで友達を作ろうとすれば、ある程度の関係性を築き上げてからではないと気色の悪いことを送り合えない。すぐに友達が欲しい私にはそのような時間がもうないのだ。
一方匿名チャットなら一期一会の関係性なので築き上げる必要がない。すぐにアニメの話に持っていける。これしかない。

早くオタクと話したかった私は、開口一番アニメについて話題を振った

ChatPadではお互い「こんにちは」から入り好きな話題で会話を楽しむのだが、この時私は1秒でも早くオタクとマッチングしたかった。礼儀作法を土に埋めて開口一番こう送る。
「やあ、BANANA FISHを知っているかい?」
マッチング相手一人目は、これを見ると返事もなくチャットを強制終了した。大丈夫、無視して避けられた時のメンタルの強さはティッシュ配りのバイトで培った。問題ない。

二人目は私が文字を打っている間に先手を打ってきた。
「志村」
正直これは返事したい。「うしろうしろ」でもいいし「メガネが本体」でもいいし「オールマイト頑張ってるよ」でもいい。オタクの血が騒ぐが、今私は旅の途中。寄り道は許されない。
志村の件を無視して「やあ、BANANA FISHを知っているかい?」と送るとチャットは強制終了された。そーりゃっそうじゃ。

三人目。「やあ(略)」と送ると「お、アニメ勢か」と来た。
ついに作品を知っている人との会合を果たす。
「あふれる感情を吐き出したいのだ」と送ると「つきあおう」と返ってくる。ノリも良いなと好感触を得たが、また相手からメッセージが送られてくる。
「でも知らん、内容を含め」
知らんのかい!
感情の爆発に内容の説明なんてつけられるか。あんた芸術に解説ついてないと鑑賞できないタイプか?
「内容がかなり複雑なので説明しながらはちょっと難しいかもしれん」
「ほな眠ろう」
チャットは強制終了された。一番傷ついた。

いつか同じ熱量と知識を兼ね備えた人と出会える瞬間を夢見て励む

四人目でついに内容も知っている人と出会う。
「やあ(略)」に対して「ライ麦畑でつかまえて」とアニメを観た人の感情を爆破させる「バルス」にも近い合言葉をさらりと返してきた猛者である。
しかもこちらの意図を察してか「観てどうだった?」と水を向けてくる。できたオタクだ!
私は有り難く感想を勢いよく送る。うんうんと聞いてくれる相手からふとメッセージがくる。
「アッシュに確かモデルがいたよね」
知らないです。生まれたてのオタクに知識は何もないです。
さらに相手は作中に出てくるDJサリンジャーの小説について触れ出したりしてくる。知らないです。
これは無理だ、私はクソデカ感情しか持っていないのだ、知識持ちの猛者の相手は務まらないよ。
どんどん返す言葉を失っていく私。華麗に戦意喪失。
最終的によくわからない流れで相手のおすすめの犯罪小説を教えてもらい、一期一会は幕を閉じた。

疲れ果てた私はベッドに潜る。
ああいう場で、共通の趣味を持ち、同じ熱量と知識量を兼ね備えた人と出会う確率はやはり低い。
出会えた時の気持ちは想像するだけで幸福だろう。いいなあと思う。その瞬間を夢見て励む、それしかないのだ。
さて、友達はどうしたらできる。