「めちゃくちゃブス!!!!」
突然叫ばれ笑われたあの瞬間、私は動けなくなった。
高校最後の春、私は受験勉強から解放され、友達と遊びに出かけていた。

恐怖で止まる足、友達の舌打ち、笑い声。全てスローモーションのよう

駅前を歩く2人。
私は友達とのおしゃべりに夢中になっていた。

来月から大学生だよ?
どうする?友達できるかな?
別々の学校になっても仲良くしてね。

長かった受験勉強が終わり、これから訪れるだろう大学生活に胸を弾ませていた。
それは突然だった。
「めちゃくちゃブス!!!!」
突然叫ばれたという恐怖で、私の足は止まってしまった。
周りにいた通行人がちらほら私たちを見る。
後ろからギャハハという笑い声。
隣にいた友達の舌打ち。
なにもかもスローモーションのようだった。
友達曰く、私は話に夢中で気が付かなかったが、若い男性2人が少し前から私たちをチラチラと見て、なにかニヤニヤ話をしていたそう。
そしてすれ違う瞬間、叫ばれた。

知らない大人の男の人から向けられた明らかな冷笑。
友達は、
「は?アイツらの方がブスじゃん、きも」
と吐き捨てていたが、私はカタカタと震え、泣き出しそうになっていた。
大学生活への胸の高鳴りももう完全に消え、今にも逃げ出したい、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

ごめんなさい、ブスなのに笑って歩いててすみません。
うるさかったですよね。
ブスなのに楽しそうにしてごめんなさい。

7年も前のことなのに、「ブス」という言葉が頭にこびりついている

自分が恥ずかしくて消えたかった。
もう7年も前のこと。
それでも私は今でも忘れることが出来ない。
大学生になり、好きな人が出来て。
「結はかわいいよ」
「好きだよ」
そう言って貰えても、いつもあの茶髪のチャラそうな男性2人がチラついて、

可愛くなくてごめんなさい。
ブスでごめんなさい。

周りの人への申し訳なさで萎縮していた。
社会人になって、そんな奴らは気にするだけ無駄なんだということがわかった。
最低なヤツの言葉を受け止める義理はない。
そんな言葉捨ててしまえばいい。
だけど、私は今でも「ブス」という言葉が頭にこびりついている。

あれから随分垢抜けたと思う。
メイクを勉強して、ダイエットをして、雑誌やSNSで服の勉強をした。
周りから可愛いと言って貰えることが増えた。
だけど、それでも。
今でもその駅前を通る時、肩の力がぐっと入るのだ。

こわい。ごめんなさい。そんな感情になる自分が嫌になる。
自分を否定するやつの言葉なんて、捨ててしまえばいい。
謝る必要なんてどこにもない。
分かっているのに、一度つけられた傷は簡単には癒えない。

出口はまだ見えず、いつになったらあの呪縛から抜け出せるんだろう

きっとあの人たちはもう7年前のことなんて覚えていない。
あの瞬間、面白そうだと思ってやったんだろう。
悔しい。
どうして見ず知らずの人に、一瞬の思いつきのために傷つけられなければならなかったんだ。
それを克服するために、必死にならなければならなかった自分が悔しい。
劣等感に苛まれて、いつまでもあの言葉を捨てられない自分が悔しい。
今、可愛くなりたいと強く願うのも、そいつらが原因になってると思うとなんだか嫌だ。
私は私のために可愛くなろうとしている。
それは間違いない事。
だけど私はまだ、あの7年も前に言われた言葉を捨てられない。
いつになったらあの呪縛から抜け出せるんだろう。
出口はまだ分からないけど。
それでも私は今日も自分のためにメイクする。