結婚式で使うために、昔の写真を探していた時、高校生の制服を着ている自分の姿を久しぶりに見て、びっくりした。
そこには、体がうすっぺらく、足もひょろりとしていて、誰かに蹴られたら折れてしまいそうな女子高校生が写っていた。
私って、こんなに痩せていたんだっけ?
自分の中で記憶し、イメージしていた17歳の自分と、写真に残る自分を10年越しに客観的にみて感じる印象のギャップに、ほんとうにこれは私なのだろうか、と驚いてしまった。
将来の問題は自分ごとではなく、17歳の私は毎日体重計に乗っていた
「私は太っているから、痩せないといけない」
そう思い始めたのは高校1年生のころ。きっかけは、あるようではっきりとはしていない。
中学生の時の健康診断後に、自分よりも10㎝以上背の高い女の子の結果用紙が偶然見え、書かれていた体重が自分と同じだったこと。
その子は手足も棒のように細くて、骨格からほっそりしている女の子だったのに。
他には、同級生の中で少し色っぽく、女性らしいなと感じていた女の子が、とても華奢で黒いズボンが似合う子だったこと。
気付いたら他の子の足と自分の足を無意識に比べるようになり、あの子よりも太い、あの子よりは細い、といつも考えるようになったこと。
昼のお弁当箱のサイズが、自分はほかの友達よりも大きいと気づいたこと。
そんな思いが積み重なり、勉強や進路を決めるストレスもあったのか、食べる量を減らしてみるようになった。
そうしたら、最初みるみる体重は落ちた。
家族に気づかれないように毎日体重計に乗るとき、昨日よりも体重が500gでも少なかったら、なんとも言えない達成感に満たされるようになった。
一番早くに気づいたのは母だった。
月経の頻度も減り、食べる量を減らしたり、家で食べることを避けている私を見て、母が心配してくれていることに、私も気づいていた。
でも、具体的に母にどのような言葉をかけてもらっていたかは覚えていない。
10代で急激に痩せると、将来的に骨粗しょう症になりやすい、月経が止まってしまう、毛が濃くなる、逆に太りやすくなる、ということもなんとなく知っていた。
でも、自分は大丈夫だろう、と思っていたし、その問題はジブンゴトではなかったのだと思う。
それよりも、体重が減り、服がぶかぶかになっていくことの快感と、目に見える“努力の証”があることがただただ嬉しかった。
摂食障害になっていた当時の私は、自分をダメな人間と思い込んでいて
身長157㎝、体重48㎏だった私は、一時期38㎏まで落ちた。
でも、そこからは、どんなに頑張っても、落ちなかった。
携帯で調べると、拒食症や摂食障害になった女性の話も出てきたが、その人たちは20㎏台まで落ちていて、手足も骨と皮のようになっていて、だから「私は違う」と思っていた。
一番コンプレックスなのは、足。それは今も変わらない。
太ももが太い、膝の上に肉がある、足首が太い、アキレス腱が見えない、全体の形が嫌い、足も短い。挙げればきりがない。街中でガラスや鏡があれば、自分の姿を見て幻滅していた。
この摂食障害の怖いところは、自分にとっては当たり前、きっと他の人もそう思っているに違いない、と信じ込んでいる自分に気づけないこと。
大学生になれば、飲み会などの席で数人の男性と話すときには、体型や見た目についていじられている女子を見れば、いつか私もいじられる、と思っていた。「結構足太いよね」「腕太いよね」といつか言われるんじゃないか、そのときに変な空気にならないように、どう言い返したらいいのか、いつもどこかで怖かった。
「私は太っている、皆にあの子よりも太っていると思われている、もっと痩せないとみんなに好かれない、太る自分はダメだ」「運動をしても、食事制限をしても、足が細くならない自分はダメな人間だ」と、当然のように思っていた。
17歳の自分が抱いていた感覚そのものが、今も残っているとは思わない。
この10年の間で、高校を卒業し、大学生になり、一人暮らしをし、助産師として働き、長くお付き合いしてきた男性と同居し、結婚した。
その間も、「私は太っているから、痩せなくてはならない」という気持ちは、私の意識のなかにつきまとってきたけれど、その意識は強弱があり、種類も変わり、ポジティブに受け止められるようにもなったり、生活の一部に溶け込んだりしてきた。
生活が変わり、新しく出会う人がいて、気持ちが変わっていくうちに、体重そのものが痩せているか太っているか、の基準ではなく、生まれついた骨格や脂肪の付き方は皆違うこと、全員が全員モデルのように痩せなくてよいこと、顔も体格も人それぞれ悩みがあり、人それぞれ好みがある、と素直に感じ、理解できるようになってきた。
自分の姿が嫌いで仕方がなかった17歳のあなたを抱きしめたくなった
長く付き合ってから結婚した夫の影響も大きいと思っている。
彼は私に、「全然太っていないよ」「体重が増えてもきっと可愛い」「体重が増えたところもみてみたい」「体重が増えるのが怖いなら、一緒に増えようね」と言ってくれる。
「そんなバカな。痩せてたほうがいいに決まっている」とふてくされてしまう気持ちもある。YouTubeで、女性のシミや脱毛してないこと、デブ、ぼさぼさの髪だと、彼氏や夫に嫌われる、という広告を見れば、「またこれだ~」と冷ややかな気持ちを抱きながらも、「痩せて、肌も綺麗で、髪もさらさらでずっとこの先もいなくてはならない」と脅迫されるように感じる自分がいる。
17歳の自分は、自分の姿が嫌いで仕方なくて、足の太さを気にして、靴下じゃなくて黒タイツを履いていた。制服のスカートも一番自分の足が細く見えると考えていた短さにしていた。
その17歳を、10年経って見てみれば、太ってなんかいないし、そんなに自分を嫌いにならなくてよいし、必死にしていなくてよかったんだよ、と愛おしくなった。
太ってなんかいないよ、十分がんばっているよ、自分の体も、自分自身もそんなに嫌いにならなくていいよ、あなたらしくいてもあなたを好きになってくれる人がいるよ、もちろん合わない人もいるけどね。
時間が経ってわかることがある。10年後の私は、17歳のあなたを、抱きしめたくなった。