わたしは2番目以下の女だった。
付き合ってはいなかった。いわゆるセフレ。相手は直属の上司Aさんだった。
イケメンではないけど、7歳年上で頼りになる上司。食事に行けばおしゃれなレストランを予約してくれるし、奢ってくれる。
24歳で初めて経験する大人のデートに、わたしは浮き足立った。

繰り返されるデートは「付き合うまでの通過儀礼」だと思っていたし、「上司の彼女」というポジションが近づいていると信じていた。しかし、そろそろ「告白」という工程が来るのではないかと構えていたら、それを飛ばして「SEX」という工程が来てしまった。

これは「セフレという関係なのか、それとも大人の恋愛は告白なしってやつなのか」。この疑問を頭に思い浮かべると、わたしの精神状態はジェットコースターのごとく乱高下。なのに、彼に直接聞く度胸は持ち合わせていなかった。

初めてSEXをしてから、わたしへの対応が雑になった気がする。デートや食事にいくこともなくなった。体を重ねる回数が増えれば増えるほど、「わたしってセフレ?」と何度も口に出そうとした疑問が脳内を占領していく。

フラグに気づかないふりをしたために、引き際を見誤った

他にも女がいることがはっきりと分かったのは、彼との関係が1年ほど続いた頃だった。証拠を見つけてから、わたしは彼に直接聞くことにした。
しかし、彼は認めなかった。相手はわたしが新入社員の頃に面倒を見てくれた先輩のBさんだった。

彼女のSNSには、Aさんと行った旅行の写真があげられていた。わたしとは旅行なんて行ってくれない。SEXをしてからは「〇〇に行こう」と提案はしてくるもののそれが実行されることはなく、デートらしいものといえばわたしの家の近所にあるラーメン屋に行くのみ。彼女の方が本命に近いのは明白だ。
そこからさらに他の先輩ともセフレ関係にあることが発覚した。そちらの方はもう5年以上関係が続いていたらしい。

もちろん浮気をされていたことはショックだった(彼にとって浮気相手はわたしの方だったのだろうけど)。でも、わたしを1番絶望させたのは、引き際を何度も見誤った自分に対してだ。

わたしは最初から薄々気がついていた。
Aさんは社内恋愛を繰り返して、社長から「次、社内の子に手を出したらクビ」と言われていることも噂に聞いていたし、AさんとBさんができているのではないかという噂は社内中に知れ渡っていた。
「付き合ってもいいかなぁ、とは思い始めてる」と言うくせに、ちゃんと付き合ってくれない。デートに誘って期待させるくせに、なかなか実行には移さない。
フラグは十分に立っていたのだ。

なのに、わたしはスマホで『男子が本命の女子にする行動』のようなサイトをいくつもいくつも巡り、自分に都合のいい答えが出てくるまで画面をスクロールし続けた。直視しないように一生懸命目隠しをしてきた。1年たってもなお、目隠しをしたまま歩き続けるつもりだった。

あの失恋からもう5年が経つ。この5年間で何度「あの時が引き際だった」「あの時こうしていれば」を繰り返しただろう。
綻びを見つけた時に修繕しなければ、穴はどんどん大きくなっていく。わたしは大体、穴が手をつけられないほど大きくなった時にやっと「どうにかしよう」と重い腰をあげる。または腰をあげないとどうにもならない状態になっている。

これを何とかすれば、もう少し楽しい恋愛ができると思うんだけどなぁ。