聞けば気の毒、見れば目の毒だ。知らない方が幸せなことも多いのに、それでも知りたいと思ってしまうのは単なる好奇心なんだろうか。
一枚の手紙が知りたくなかった真実を私に教えてくれた。
彼の家にお泊まりして、翌日彼は早朝に出社した。空っぽの部屋でのんびりコーヒーを飲んでいた私は、何気なく彼のデスクに目をやった。無造作に積み上げられた書類の隙間から淡いピンク色の封筒の角が見えていた。

目に飛び込んできたのは「浮気」の2文字。手紙の送り主は元カノ

嫌な予感がした。女の勘が見てはいけないと言っている。鼓動が早まり、変な汗が出てきた。
しかし、見ないわけにはいかなかった。彼のことは何でも知っておきたいし、知っておけば何かあったときに対処できる。そう思い封筒を開けることにした。中身は、前の彼女からの置き手紙だった。
封筒から出てきたものはたった一枚の便箋だった。一言、「ずっとあなたの浮気を知っていました。別れましょう。」と書いてあった。もう一度読んでみたが、同じことが書いてあるだけだ。
浮気……?愛情深く、優しさしか取り柄がないような彼が、浮気?しかもずっとと書いてある。長期間だったのだろうか?彼のことが大好きで脳内お花畑モードだった私は、むしろこの手紙が何かの間違いなんじゃないかと思った。いや、これを執筆している今でもそう思っている。思っているというより信じているに近いかもしれない。それ以上は見ていられなくなり、そっとその手紙は元の場所に戻した。

本人に尋ねることも、誰かに相談することもできなくて

彼の知らない一面を思いがけない形で知ることになり、それから数日間、モヤモヤ悩んだ。考えれば考えるほど真相は闇の中で、かと言って本人に問い詰める勇気はなかった。そんな人やめておけ、と言われるような気がして誰にも相談できずにいた。そこで私はあぁやっぱり何があっても彼を信じたいんだなと思った。
彼の持ち物を物色したら更に何か出てきたかもしれないし、手紙に関する証拠こそ出てきたかもしれないけど、それもできなかった。結果、彼には手紙を見たことは伝えないと決めた。あのことが真実なのかどうかも分からないし(前の彼女の思い過ごしかもしれない)、問い詰めたところで本当のことを話してくれるとも限らない。
もし本当であれば、自分にとって不都合なことだからだ。今回は過ぎたこととして、見なかったことにしようと決めた。

はじめて選んだグレーの世界。好きという気持ちも関係も変わらない

私は基本、白黒はっきりしたいタイプだ。一度モヤモヤしたら止まらないし、全てにおいて相手を疑ってしまうから。だけど今回だけはグレーにしておこうと思う。あのことを知らなければ、真っ白なままお花畑みたいな世界で生きていられたはずだ。正直、知りたくはなかった。知らない方が圧倒的に幸せだった。知ってしまった以上、もう真っ白に戻れることはないけど、日々信用が試されるようになっただけで、相変わらず彼のことは好きだし、関係に変化はない。ひとつ秘密を勝手に共有しただけだ。人は誰しも秘密を抱えているものだと割り切って今日もグレーの世界を生きている。