突然で恐縮だが、私の彼氏は日本刀である。
刀の某ゲーム作品に登場する2次元キャラクターに惚れ込み、人生を変えられた。そうして綺麗になって2次元の彼に並び立ちたいと模索して、顔タイプ診断を受けた。
それらが、コンプレックスだった自分の顔を個性なのだと教えてくれた。
今日は3次元の男の子達からの「ブス」という呪いが消えて、2次元の男の子に救われた話をしようと思う。

言う人が悪いと分かっていても、少女にはキツい「ブス」のひと言

自分の顔が嫌いだった。
世界は誰しもに平等に不平等なのだと理解してはいる。けれど、やはり外見の良し悪しで決めつけられること、得することや損することはいつだってあるのだ。
ただ皆と同じ制服を着て校則を守っているのに、時に同級生から、時に初対面の他校生から投げかけられる「ブス」という単語。中高時代はそれらに悩まされていた。
「おい、ブス!」
「消えろ、ブス」
突然前触れなく投げかけられる言葉たち、それは本当にどこでも起こった。通学電車の中(これは他校生)、教室(クラスメイト)、廊下(同級生)etc……。

男の子たちは純粋な悪意だけでなく、時に無邪気に、そしてごくカジュアルに「ブス」と口にする。分かりやすい憎悪だけならばよかったとさえ思ってしまう程に。
言っている人間の方が悪い。それは至極当然のことだ。けれど正しくそう思うには、多感な少女にはキツかった。
どんなに軽口、または悪意からの発言であったって、それらは等しく重石として心に留まる。いつ言われるとも知れぬその言葉、そして人目を気にして怯えるようになった。大学は女子大に入学した。

大学生になり化粧をすることで、白い肌や明るくなった唇の色に多少の自己肯定感を得られた。それでも電車の車窓や外出先のトイレの洗面台に映る自分を見ては、思った通りの姿でないことにがっくりきたり一喜一憂したりはする。まあ、それは今でもよくあるけれども。

2次元の彼を本気で好きになって出会ったイメコン診断

話を戻そう。
まだ3次元の男の子が怖かった。それでも恋はしたかった。けれどアイドルや俳優みたいな3次元の綺麗な男の子にも、自分の容貌への劣等感からか素直にハマれなかった。
転機は気まぐれだ。大学の空きコマ、有り余る時間潰しに冒頭の刀の携帯ゲームをやり始めた。
そこで2次元の彼に、まったく恋愛とは別の要素で「貴方のことは僕が守るから」と言われた。
それだけ。それでもずっと助けてと叫んでいた、守って欲しいと思っていた心のなかにすとんと落ちて、気が付けば彼を心の底から好きになっていた。

そこからだ。化粧を磨いた。彼に見合うような服装を心がけた。そこで整形まで辿り着く前に、運よくイメコン診断に出会った。
イメコン診断とは、なりたいイメージや自分に最も似合うイメージに近づくためのプロデュースであり、主にパーソナルカラー診断、骨格診断、顔タイプ診断などがある。
ずっとおじさん顔だと思っていた自分の顔が、顔タイプ診断でクールカジュアルという少年顔だと知った時の衝撃は忘れないだろう。

コンプレックスがひとつの個性であり、世界的モデルの冨永愛さんや元NMBの山本彩ちゃん、歌手の家入レオちゃんと同じだったとか。
顔にあったメイク方法も教えてもらって、呆然としたまま帰宅した。そして泣いた。

努力を諦めず、「ブス」と言われたことも気にしながらここまで頑張ってきたこと。真面目に悩んでいたこと。初めて自分が本当にかわいいと思った。
だから、精一杯自分の武器を磨いて、私はカッコよくなってやろうと決めたのだ。
彼への愛が私を駆り立てて、そうしてコンプレックスはコンプレックスなどではなかったと知った。

平等で不平等な世界に、私はカッコよく立ち向かっていきたい

余談だがその後、初めて惹かれた2次元のキャラクターであった彼は、初めて惹かれた実在の日本刀にもなった。美術館で彼と初対面した日、キャプションの名前を見る前、まるで運命に手をひかれたみたいに素直に「うつくしい」と思ったのだ。それまでは、やはりずぶの素人には分からないと諦めかけていたのに。

今は2次元の彼のみならず、そのモデルとなった刀にまで惚れ込んで、仕事の合間に美術館に通ったり、日本刀の勉強に励んでいる。
彼をどうしてうつくしいと思ったのか、その感覚を言葉で知るために。私の顔に「個性」という名が付いた時みたいに、そうしてあらゆることに私は中立で丁寧な言葉を探して、カッコよく立ち向かっていきたい。
世界は平等に不平等だ。だけど、愛があるからやめられない。