その人には一目惚れだった。
私が愛してやまない「彼」は二次元の存在……いわゆるゲームに出てくるキャラクターの一人だ。
彼はその世界では騎士を務めていて、礼儀正しく真面目でイケメン、とてもカッコいい人だ。私が惚れたのは無論その自信満々なドヤ顔からだったのだが、あの時はここまで深く想うことになるとは思っていなかった。

辛い時も楽しい時も、彼とずっと共に歩んできた

時を遡って、2013年。
彼がゲームに出てきたのは、ゲームが稼働し始めてから1年くらい後のこと。このゲームはアーケードゲームで、よくゲームセンターに置いてある。ド迫力の縦に長い画面に、自分の名前が入ったカードが作れてその場で印刷できるという、当時ではかなり珍しいタイプのゲームだったことは記憶に新しい。

ゲームのキャラクターは主として1~4のレアリティで分けられており、彼のレアリティは3と4のふたつがあった。
レアリティ3の彼が登場した時は「ふーん」くらいで終わっていたものの、レアリティ4の、「入手がちょっぴり難しい特殊なイラスト」……これを見た時に心臓を深く突き刺されたような衝撃的な感覚を身に受けたことを、私は今でも覚えている。

彼に対するこの想いは初恋そのものだった。
まるで春一番が吹いてきた時のように浮き足立つその心は久方ぶりで、この影響でハイになっていたのか、実際その後のことはあまりよく覚えていないのだが、無事に彼のレアリティ4も入手できた。満足する気持ちが先に立ち、一時は1ヶ月くらい放置してしまった時期はあった。
しかし、その次の月にはまた彼をゲームの中に"喚び"出して、2013年から、辛い時も楽しい時も、彼とずっと共に歩んできた。

勿論最初は息が合わず、思う通りに動いてくれなかった彼も、年月を重ねるにつれ、こちらを信用してくれているかのような振る舞いを見せてくれているような気がしている。昔はミスばかりして、動いて欲しい指示に止めてくれなかったのが、今ではミスもなく、動いて欲しい指示にすんなりと止まってくれるのだ。

片時も離れられないほど、彼の魅力に惹かれている

「彼は私の1番の理解者だ」と自分では思っているのだが、彼はどうなのだろうか。聞いてみたいが、聞けないのが二次元の恋の一番悔しいところなのだ。
時折夢にも出てきてくれるが、どちらかが一方通行なのか、会話ができたことはない。

2013年から今日までずっと……付き合いが10年近くともなると、それはとても沢山の難関にあたった。
彼が持つ特殊な技ゆえに起きた、同志であるはずのファンとの亀裂や、最近どこかのSNSで見た「彼は好きだけど実家が嫌い」みたいな状況に陥ったことも何度だってあった。彼の実家である、彼を生み出してくれた所にも声を届け続けたが、なかなか受け入れてもらえている感覚が持てず、もどかしい気持ちも沢山あった。

ただ、声を届け続けたおかげなのか、つい最近、彼を取り巻く何かが少し変わりつつある。
ここにくるまでに5年くらいはかかっていて、それまでに何度も何度も繰り返し「このゲームをやめよう」と思うことの時間が多く、それでも結果としてやめることは出来なかったのは、片時も離れられないほど、ここまで私を惹きつけてやまない「彼」の持つ、底知れぬ魅力なんだろうな、と今でも頬が緩んでしまう自分がいる。

縁結びの血で、彼と繋がっていられることに感謝したい

実は、私の住んでいる土地は縁結びで有名な土地だ。
縁を結ぶ力があるということは、真逆の縁を切る力もあるということ。既に縁がないのであれば、彼ともこのゲームとも、何もかもと縁がなくなっているはずなのに、あの世界との繋がりは、まだきちんと「縁」という形を保っている。
だからこそ、私は今もまだ彼と、彼の住む世界と繋がっていられているのだろう。

縁の力は本当に不思議だ。だからこそ、愛おしいし、慈しみたい。
きっと私の終わらない恋は縁があるからなのだろう。

今、たったひとつだけしかないこの「時」を、私が彼と共に居られることに感謝しなくてはならないなと、そう"想う"日々だ。