人生への焦りで眠れない夜。隣で寝ている夫の手をにぎる
たまに眠れない夜がある。
体がしんどいわけでも困ったことがあるわけでもない。ただ、少しの不安があるだけ。
28歳と9カ月、結婚もして夫と二人暮らし。引っ越しを機に仕事を辞めて、今はごゆるり次の仕事を探しているところ。
嫌なことも面倒なことも今のところはない。でも、何かずっとひっかかっている感じ。
「次の仕事は決まるかな。ずっと無職だったらどう思われるかな」
「人と話すのがどんどん億劫になるな」
「バリキャリは嫌だけど、主婦もなんか違うよな」
「みんな、赤ちゃん産んで子育てしてるな」
「……今日ももうこんな時間か」
人生に対する焦りが頭の中を埋め尽くした結果、夜眠れなくなる。そんな時は、隣で眠っている夫の手を握ると、少しだけ安心する。
最近、時間を持て余しているので、アメリカの昔のドラマ『デスパレートな妻たち』を全部見た。1シーズン23話(1話60分)×シーズン8。わたしの暇具合がよくわかる。
裕福な街のご近所さんとそのゴシップをテーマに、子育てに離婚、女性のキャリアやミドルエイジの恋愛などが面白おかしく描かれている。
後半あたりで主人公の夫が不慮の事故で死んでしまうのだが、わたしは自分でもびっくりするくらいショックを受けた。毎日長時間見ていたので、その世界に入り込んでいたせいかもしれないが。ドラマを見ていない夫にまで「マイク、死んじゃったよ!」と叫んだほど。
その日、わたしは遅くまで眠れなかった。
年を重ねるほど苦労が増えるならば、「今日が一番いい日」
「わたしも、いつまでもこうやって生きているわけじゃないよな」
そんなことを思った。
闇金に銃で撃たれる最期ではないかもしれないが、生まれた限り遅かれ早かれ死んでしまうこと、そして年齢を重ねるごとにストレスや不安が増えることに気づいた。子育て・親の介護問題・夫婦間の衝突・友達との価値観のずれ・キャリアのいき詰まり・金銭トラブル・病気……。「明日はきっといい日」「未来は明るい」みたいなキャッチコピーが巷にはあふれているが、よく考えるとそんなの大嘘じゃねえかと初めて思った。
たいていの人は、年をとればとるほど苦労するのが人生なのだ。多分。
マイクの死とともに感傷的になったわたしだったが、もうひとつのことに気づいた。
「明日以降が今日より全部よくない日って考えたら、今日が一番いい日ってこと?」
思考がかなり独特だが、これもひとつの考え方だと思う。
……「今」がいつでも一番幸せなのかも?特別に嫌なことが起こっていたら、嫌なことが終わったときに幸せを感じるだろうけど、わたしは嫌なことが起こっていないけど不安になって嫌な気持ちになりがちなタイプである。
このタイプは楽天的な「明日があるさ~」みたいな言葉は刺さりにくいはず。自分が抱える不安とその言葉に、大きなギャップを感じるからだと思う。
大きな問題に遭遇したことがない。これはとても幸せなこと
生きている限り、「ずっと幸せです」なんてことはないと思う。自分の不甲斐なさを感じたり他人と比較して落ち込んだり、自分の人生に焦りを感じたり。やる気がなくて無気力になったり、自分ではコントロールできない問題にぶつかったり。
よく考えると、まだわたしはそこまで大きな問題には遭遇していない。これから起こるかもしれないけれど、まだ起きていないのだ。それはすごくありがたくて、とても幸せなことだと改めて感じた。
眠れない時は、自分が今恵まれていることになかなか気づけなかったりする。わたしはマイクのおかげで、眠れない夜も自分は幸せだと思うことができるようになった。
眠れない夜、わたしは隣で眠る夫の手をそっと握った。「今日がいちばん」とつぶやいて。