人生で最悪な誕生日。思い出したくもないけれど、あの夜があったから、もうあれより苦しい夜はこないのかなと思える。

誕生日がある月は少しそわそわしてしまう。
大人になるにつれてそんな気持ちも薄らいでいったけれど、今月はちょっと特別。
生まれて初めて、恋人にお祝いしてもらえるかもしれない。そんな期待に胸を膨らませていた。

誕生日の前日にきた連絡は、バチンと夢から覚めさせるもの

恋人にお祝いしてもらうってどんな気持ちなんだろう。
生まれてから一度も恋人と過ごしたことがない。
それが少しコンプレックスでもあったし、ずっと過ごしてみたいと密かに願っていた。
SNSで友人が恋人からお祝いされて幸せ!みたいな投稿を見るたびに、心から祝福できていない自分がとても嫌だった。妬ましい気持ちがあった。
でも今年はようやく恋人と過ごせる一日になりそうだ。
やっぱりプレゼントも少し楽しみだけど、それより日付が変わる時に一緒にいられたらきっとすごく幸せなんだろうな。
手を繋いで迎えたいな。キスもしたいし抱き合って寝たいな。
想像すればするほど、幸せだった。実際にそうなると思っていたから。

誕生日の前日、仕事に行く支度をしていると、あなたから連絡がきた。わたしは「明日の予定かな?」と思って、少し嬉しい気持ちでLINEを開いた。でもそれが別れを告げる内容で、バチンといきなり夢から覚めた気分だった。気持ち急ぎめでメイクをしていた手が止まった。
別れることはもちろん、楽しみにしていた日の前日だったことがとてもキツかった。勝手に期待してしまっていたけれど、本当に絶望に近かった。
まだチークまでしか塗ってないのに。なんだかもう何もやる気が起きなくなっていた。
別に化粧だってどうだっていい。それよりわたしは何かのバチが当たったのかな。
約20年間、夢見ていた時は今年も結局来なかった。それどころか地獄の底にいるような気持ちで迎えることとなった。

誕生日の止まらない通知が、あなたからじゃないことはわかっている

なんとか仕事に行って、ぼーっとしていてミスも多かったけれど、無事に終わらせて帰ってきた。
わたしは今まで恋愛経験が乏しく、恋人に振られたくらいで仕事に影響を出すとか言語道断!と思っていたけれど、今日初めてそういう人の気持ちが分かった。
本当ならあなたの家に行って、ご飯食べて、他愛もない話をしてた時間かな。
何を考えても苦しかった。あなたの家に行く用の服や化粧水が入ったカバンが目に入ると、なんだかすごく嫌な気持ちだった。
もうすぐ日付が変わって12時になる。
1人布団に入ると、涙が伝って耳まで入ってきて気持ち悪かった。寝返りをするのも億劫だった。
少しして、LINEの通知が続けざまに鳴り始めた。でもそれが、一番側にいて、おめでとうと言ってほしかったあなたからの連絡じゃないことは分かっていた。そのことを実感してしまうから、携帯の電源を切った。

あなたに本当は今日、隣にいてほしかった。いつもはちょっとしたことで喧嘩をしてしまうけど、今日だけは笑い合ってぎゅってして、手を繋いで一緒に寝たかった。それがずっと憧れていた時間だったのにな。しかも大好きで仕方ないあなたとはもう会えないなんて。

朝になれば気持ちが晴れる気がするのに、時計の針はちっとも進まない

あー、明日も仕事あるのにな。
想像してまた辛くなって、やっぱり眠れない。
起きたら絶対に最悪な顔になってるだろうし、化粧ものらないし、気分だってどん底で、それにあなたに会えない。
あなたがいなくなってわたしはぽっかり穴が空いたみたいなのに、わたしの周りは何事もなかったようにいつもと同じ日常が繰り返されていく。
自分だけ取り残されたみたいに。
目が冴えて苦しくて、眠りたいのに寝られない。
どうか早く朝になってほしい。そうしたらこんな気持ちも少し晴れる気がする。
そう思うのに、さっきからちっとも時計の針は進んでいなかった。

もうこのまま、きっと夜は明けない気がした。