マッチングアプリで知り合って、仲良くしている男性がいる。
別に付き合ってはいない。女友達の男版、そんな感じだ。
それを世間では男友達というのかもしれないが、その呼び名はなんとなく腑に落ちない。ここではAとでも呼ぶことにする。
Aとの関係は少し奇妙で、私がアプリで会う男性の話を共有する、そんな感じであった。勿論、Aと出かけたことも何度もある。

男女の関係を持ったことを正直に伝えたとき、Aから届いた返事は

アプリで暇つぶしがてら数々の男性に会い続け、恋に落ちることもなかったある日のこと。私は容姿が好みの男性に出会い、ある意味相手の押しに負けて男女の関係を持った。
その日もいつものようにAに、男性と会うということを話していた。そして何を思ったのか、私は関係を持ったことをAにLINEで言ったのである。
何か聞かれたわけでもないのにだ。バカ正直もここまでくると、もはやこわいと我ながら思う。

暗いホテルの一室でさっき知り合ったばかりの男はもう寝息を立てて眠っている。呑気なものだ。性欲が満たされて、肉体疲労をで癒しているようだ。
その傍らで、私は一台しかないベッドを抜け出してAと連絡をとっていた。なんとなく彼の返事が気になって眠る気になれなかったからだ。

案の定、バカじゃないの、だかなんだか忘れたが、気分の良くない言葉を言われたのだ。そして、俺の気持ちなんて何も考えてないんだね、と言われたのだ。
俺の気持ちってなんだよ、と思うと同時に、確かに考えていなかったことに気づいた。気づくのが遅いと言えばまあそうである。
その後に言われたわけである。俺は言わなかったのに、と。

「嘘」とは少し違う、「言わなくて良いこと」の大切さに気づいたとき

何を、となるわけだ。彼もまた私と同様に、アプリの女性とたまに会っていた。要は彼も、アプリの女性と関係を持っていたらしい。
私にとってそれは初耳だった。そしてそれを言わないであることがAなりの、私への気遣いというか優しさだったらしい。

それを聞いて、まさかAがそんなことをしているとは微塵も思っていなかった私は、自分だってやることやってるんじゃないか、そう思った。ある種知りたくなかったわけだ。
いくら付き合っているわけではないとはいえ、気分の良い話ではない。それを想像出来ていたAは、言わずにいたということである。

このやりとりにより、一瞬縁が切れそうになったが、結局Aとは仲直りのようなものをし、今も関係は続いている。その時初めて、優しい嘘とはこういうことなのだと知った。嘘とは少し違うが、真実が全て明るみになる必要は必ずしもないということだ。言わなくて良いこと、まさにこの一言に尽きる。そういう真実が世の中にはたくさんあるのだ。

関係が終わるその日まで、私はAに「優しい嘘」をつきつづける

Aの告白を知りたくはなかったが、振り返ると、この一件があったことで、Aと縁が切れそうになり、自分にとってAが大切な存在になっていると気づけた。だから、知りたくないことを知るということは、別の側面において気づきをもたらしてくれることもあるのだ。だから、当時関係を持った男性にはある意味感謝である。

最後になるが、これだけバカ正直でなんでも話してしまう私にも、Aに話していないことがある。それは、私には彼氏がいるということだ。
Aに言う必要のない真実の最たるものである。男性と関係を持ったこと以上にAにとっては知りたくなかったことになってしまう。だから私はこのことをAに話すことはない。

こうして考えてみると、世の中はいくらかの嘘を交えながらスムーズに歯車が回っているのだと思う。皮肉かもしれないが。
だから私は、もうこれ以上Aを嫌な気持ちにさせないように、真実を話さずにい続ける。関係が終わるその日まで。