友人と学生時代を懐かしんで話すとき、絶対に出てくる話題がある。
みんなが口を揃えて、「あの頃はこんな人だとは思わなかったよね」と。

早く帰宅したいのに、なかなか決まらないクラス委員

高校受験、自分を一新したくて知り合いの少ない、少し離れた町の高校を選んだ。
自分の学力に見合った偏差値であったし、片道30分同じ電車に乗っているだけなら通学も苦ではなかった。
入学式を終えて教室に分かれた私たちは、さっそく各委員を決めることになった。
最後まで希望者が現れなかったのはクラス委員。いわゆるHR委員とか学級委員、委員長ともいうだろう。とにかくそのクラス委員がなかなか決まらない。
担任教師が言う、「これ決まらんと今日は帰れやんぞ」。
静かな教室に響き渡る野太い声は、入学早々に予定調和を乱した。
とにかく私は初対面の人の海に揉まれ、もう早く帰宅したくて仕方なかった。しかし、クラス委員なんぞという目立つ役割を担うのも嫌だ。そう思って誰かが手を上げてくれるのを1番前の席で願った。背後からは、そんな気配、全くしないのだけれど。

この「挙手」が自分を変えるかも。心の中でカウントする

クラスに1人は「そういう奴」いるだろ。ムードメーカーとかマジメとか……。
こういうのは、やりたい人がやるのが1番。そうだ……自分には「向いてない」と思った。
でも、向いてないことと、やりたくないことは違うんじゃないか?

そして「自分を一新したい」という受験当時の気持ちを思い出した。
もしかしたら、この一挙手が自分を変えるかもしれない。知らない人しかいないこの教室で、自分をみんなに知ってもらう一番のチャンスかもしれない……。
あと30秒……誰も手を挙げていなさそうだったら手を挙げよう。
そう心の中で数字を数えた。

1…2…3……。

30秒も待っていられなかった。たぶんそう考えた後、私はすぐに手を挙げていたと思う。
後ろは振り向かずに真っ直ぐ手を挙げたことは、はっきりと覚えている。

当時のことを振り返って、「教室の1番前で、あんなカッコよく手を挙げる子、見たことないよ」と笑うクラスメイト。私と同様に、当時の事が印象的だったそう。そして「最初は怖い子なのかなって思ったけど……」と、この一瞬で印象が変わった人も沢山いたことも後からわかった。
知らない人達の中で1人。おそらく緊張が顔に出ていたんだろうなと思う。それを覆すきっかけになったのは少なからずクラス委員の姿だろう。

あの時手を挙げていなかったら、どんな高校生活になっただろう

入学初日からクラス委員を担って以降、友達0人で始まったクラスでも、進級する頃には誰とでも話せるようになった。

私は学年が変わるたびにクラス委員長をした。それが自分を知ってもらうのに1番手っ取り早いと入学早々気づいたからだ。

あの時手を挙げていなかったら、私の高校生活はどんな風になっていただろうか。
中学と同じように、クラスの隅の方で過ごしていただろうか。
どこかのタイミングで同じように手を挙げていただろうか。
私は友人からこの話をされるたびに、「この時に手を挙げてよかった」と思い返すのだ。

そして、進学先の専門学校でも同じことが繰り返された。「誰もしたくないこと」ならば私が率先してやった。面倒事に巻き込まれたり仕事が増えたりするため、自制は必要だ。ただのイエスマンになってはいけない。
しかし、コレをきっかけに知らない世界を知り、新しい自分に出会えるのはいいご褒美だと思う。