眠りを司るメラトニンというホルモンは、満月の夜には分泌量が低下する。これは人間の脳内時計と満月になんらかの関係性があるから、らしい。
もちろん諸説あるし、「満月だから〜」という言い回しは、「なに?スピリチュアル(笑)?」と白けた反応をされることが多いので、この話は他人にはあまりしない。だが事実、私は満月の夜は寝つきが悪い。
眠れない夜はなんとなく分かる。脳裏によぎる「今日はだめかも」
眠れない夜はなんとなく分かる。布団を被って目を閉じた時点で、「今日はだめかもな」と脳裏によぎる。
交感神経の働きが強いとか脳が興奮してるとか、実感はないけどそうなんだろう。暗闇の中で天井を睨みながら、そんなことを考えたりもする。
別に明日が憂鬱でも楽しみでもなければ、今日に満足していないわけでもない。ちゃんと朝起きて日光を浴びて、3食きちんと食べて、1時間ウォーキングしたあと筋トレもした。クソ真面目に1日のルーティンを保ち続けているのは、もう二度と眠れない日々に戻りたくないからだ。
眠れない体に、夜の時間は長すぎる。1日の疲れを抱えてベッドに逃げ込んだのに、決して休まらないまま意識だけが覚醒してしまう。
いっそ開き直って朝まで起きようとしてみるとか、一度ベッドから出るとか、どっかの軍隊式の睡眠導入法とか、そんなものはもう調べ尽くした。ぬるい牛乳を飲もうが寝室を快適な温度にしようが、眠れない時は眠れない。市販の睡眠改善薬は翌日の昼まで眠いし。
どうしても焦って苛立ってしまう。それは明日があるからだ。昨日眠れなかったので休みます、そんなものが通用する世界なんてどこにもありはしない。
寝てようが寝てまいが、朝日が昇れば私たちはまた社会の一員の顔をして、1日をやり過ごさなければいけない。とにかく体だけでも回復しておきたい。こんなに強く寝たいと願う瞬間はない。
やりたいことができるのに、しかめ面をするだけの時間
よく考えればおかしな話だ。7時間も与えられたらやりたいことがいっぱいありそうなもんなのに、ただ布団の中でしかめ面をしているしかないなんて。しかもそれが最善だなんて。
だんだん布団がぬるくて不快になってくるし、なんだか頭痛までしてくる。呼吸を整えても脱力してみても変わらない。真っ昼間に太陽の下で目を閉じてるのと体感はそんなに変わらない。
そのうち思い出したくない過去や将来的な心配事が次々に浮かんで、意識だけがギラギラと貪欲に記憶を貪ろうとしてくる。救いようがない。
あえて時計は見ないようにするが、突然時間が気になり始める。ここで諦めてYouTubeなんかを見だすと余計目が冴えて、体調は悪化していくのに眠気は覚めていってしまう。それは最も悪手だろう。
抱き枕を抱えてみたり突き放してみたり、生まれてこのかた快適な寝姿勢が見つかっていないなと痛感する。
時間が止まり、私だけ夜中に置き去りにしてくれたらいいのに
そのうち明日をどう省エネモードでやり過ごすかを考え始める。とにかくギリギリまで寝て、準備は電車の中でしよう。やらなきゃいけないこともあまり詰め込まずにいよう。帰りはとっとと帰ろう。出来れば電車で座りたい。
時間が止まればいいのに。私だけ夜中に置き去りにしてくれたらいいのに。そしたら眠くなるまで待って、たっぷり寝たあと明日に合流できるのに。馬鹿馬鹿しいとは思うけど本気で考えてしまう。
ぐるぐる考えながらだんだんイライラしてきて、再び暗闇の中で目を開く。やたらに明るい光が寝室に差し込んでいる。カーテンを開けてみると、冷たく光るまんまるな月が嘲るように窓から覗き込んでくる。
お前のせいだ。そういうことにさせてくれ。