「地球最後の日もこうしていたいね。ベッドの上で犬の動画を観て、お昼寝をして、布団を奪い合おう」
「それがいいね」

そんなことを口々に話しながら、隣で彼が体を伸ばした。
150cmに満たないわたしがひとりで寝るには、シングルベッドはすこし広い。けれど、180cmを超える彼と一緒に寝ると途端に窮屈になる。おかげでいつも寝心地はすこし悪くて、たまに身体もあちこち痛い。お互い、相手を叩かないように、潰さないようにと気にしながら寝ているから、たぶん眠りも浅い。

完全シフト制でばらばらに仕事や休みが訪れるわたしと、土日祝日がお休みの彼では休みの日の朝の過ごし方もすこし違う。

いつも通りに早く起きて、本を読んだり二度寝したりとベッドの中で寝起きを繰り返すわたしと、遅くまで寝る代わりに、急にガバリと起きて活動を始める彼。
どちらかがベッドから動けば相手に振動が伝わるから、そう身動きも取れない。
おかげでわたしは、枕元に文庫本を置く習慣ができた。それも、読みかけの本を1冊と、まだ開いてすらいないものを1冊。でもわたしは、その窮屈さが好きだ。

だからわたし達は、金曜日夜の仕事終わりから、土曜日の夜にかけての1日をどちらかの家で過ごす。彼と過ごすようになってからわたしは、2ヶ月前に申請する希望休を駆使して、土曜のお休みを死守するようになった。そんな日々をもう幾度となく彼と繰り返している。

彼といるたわいもない日々が、たまらなく嬉しい 

怖い夢を見てハッと目が覚めたとき、隣で寝息を立てて彼が寝ていると安心する。
落ち込んで眠れなくなったとき、「暗い部屋で考えごとするともっと落ち込んじゃうよ。電気つける?」と、彼がわたしのことを抱き寄せて頭を撫でてくれると少しずつ心が安らぐ。もうほとんど眠ってしまいそうに自分は眠たくても、そうやっていつもわたしのことを抱き寄せては囁いてくれる。
「大丈夫、大丈夫だよ」
彼の言葉は、いつも魔法だ。

今までの恋人と違って、彼と一緒にいても、ドキドキしたり甘い言葉を囁き合ったりすることは少ない。その代わりに、嬉しいなあとじんわり心があたたまる心地がすることが増えた。ふたりでご飯を作ったり、お風呂に入る順番を賭けてポーカーをしたり、洗剤を買いに夜のスーパーへ手を繋いでお散歩したりする。たわいもない日々のなかに、彼がいることがたまらなく嬉しい。

「勤務形態が違うし、毎日一緒に寝てると寝不足になっちゃいそうだね」
「たしかに。一緒に住んでも寝室は別にしよう。でもたまには遊びに行ってもいい?」
「じゃあこれからも、毎週金曜日は一緒に寝ようか」
「それは、最高!」

そうして、シングルベッドでぎゅうぎゅうになりながら、いろいろな言葉を交わす。
脇をくすぐりあったり、使う布団を選ぶべくドラフト会議をしたり、「貰ったら困るもの」でしりとりをしたり、明日やりたいことを話したり。
そうやって兄弟みたいに戯れ合いながら眠る金曜日の夜が1週間でいちばん好きだ。
いつか、おかえりやただいま、おはようやおやすみを毎日交わす日々が訪れることを、ふたりで夢見ている。