大学1年の夏休み前、私は長い休み期間をどう楽しむかを考えていた。
サークルの合宿や帰省の予定もあったが、それでもバイトをしていなかった私には、2ヶ月の夏休みは長かった。
スタディツアーのチラシが目に留まる。「これだ」と思った
何もせずに過ごすのは嫌だなと考えているときに、教室の机に置かれていたビラが目に留まった。
そこにはボロボロの服を着た外国人の子どもたちと日本人の大学生が楽しそうに遊んでいる写真があり、「スタディーツアー/カンボジアに小学校を建てよう!」と書かれていた。
カンボジアがどんな国かも知らなかったし、学校を建てるとは具体的にどんなことをするのかも分からなかったが、直感的に「これだ」と思った。
貯金を大きく削らなくてもよさそうな6万円という費用で、カンボジアという未知の世界に行けるということが、私をたまらなくわくわくさせた。
生まれ育った田舎の地域のみを生活圏としてきたような両親にツアーのことを伝えると、とても心配された。私の海外旅行経験は、記憶にも残っていない幼い頃に両親に連れて行ってもらったグアムと、高校の研修旅行で行ったシンガポールとカナダのみだった。
高校のときはもちろん先生の引率と決まったスケジュールのもとでの旅行だったので、安全安心の海外旅行だった。
どちらかというと慎重で怖がりな性格だった私は、新しいことに自ら飛び込んだ経験がほとんどなかった。
だから私にとっては勇気のいる決断だったが、大学入学を機に新しい自分に変わりたいという気持ちもあり、「えいや」と参加を決めた。
照りつける太陽の下、子供のように土を触り裸足で走り回る日々
ツアーは、とても楽しく学びの多いものだった。30人くらいの大学生が参加していて、そのうち半分は他大学のカンボジア支援サークルのメンバーだった。他は私と同じような個人参加で、私と同じ京都大学の学生も10人くらいいた。
私達は日中は車で郊外の農村に行って学校をつくったり子供達と遊んだりし、夜になると市街地に戻ってナイトマーケットを冷やかしたりホテルのプールで泳いだりして過ごした。何日かは、アンコールワットなどの観光地も巡った。
学校では、土をバケツやシャベルで運んでグラウンドをつくったり、校舎の壁に色を塗ったりする作業を、どろんこになりながら進めた。出来上がった学校に通うことになる子供達は、言語の壁を乗り越えて私達になつき、あそぼあそぼと群がって手を引いてくれた。
化粧が崩れるとか汗臭くなるとかそんなことを気にする人は誰もいなくて、二日目からは女の子は全員すっぴんだった。照りつける太陽の下で、私達は子供のように土を触ったり裸足で走り回ったりした。
行動力がある仲間に出会え、帰国後も発見や刺激を得られる幸せ
都市部や観光地も、日本では味わえない発展途上国特有の熱気に満ちていて刺激的だった。
戦争で体の一部を失った人たちや赤ちゃんをつれた女の人が、食べ物かお金をもらおうと観光客を執拗においかけてくる。屋台では羽化直前で雛の形がはっきりと見える鳥の卵や、得体のしれない幼虫にタランチュラの揚げ物、蛇の串焼きなどを売っている(私は幼虫とタランチュラを食べてみたが、悪くない味だった)。
10日間の滞在で、私達は色々な経験をして色々な人と出会った。現地の少女と恋に落ちて帰国後も文通を続けた男の子は、翌年同じツアーでカンボジアに行ったところ、二股をかけられていたことが分かって泣いたと言っていた。
私はカンボジアの男の子と恋に落ちたりはしなかったが、ツアーに参加したメンバーとの交流は帰国後も続いた。カンボジア支援のための活動を精力的に続ける子もいれば、なるべく多くの国を巡って人生経験を積みたいと言ってあちこち旅に出る子もいたし、旅行にこだわらずに国内でサークルやバイトを楽しんでいる子も多かった。
彼らには共通して、何をすれば自分を楽しませられるかを考えて実践する行動力があって、話をするといつも新しい発見や刺激を得ることができた。
私はスタディーツアーに参加して、そういう人たちに出会えたことを幸運だと感じ、自分もそうなりたいと思った。
参加を決めた気持ちを忘れずに、未知へ踏み出せる私でいたい
カンボジアのツアーに勇気を出して参加した経験がきっかけとなって、私は「やったことがないことは何でもやってみたい」と、貪欲に色々なことに手を出すようになった。
手話サークルへの入会、アラビア語集中合宿、ドバイやモロッコへの一人旅を初めとする海外や国内の旅行、病院で朝食を配るアルバイト、祇園のピアノラウンジでのホステスの仕事……。
大学で過ごした4年間だけでも、私は様々なことに挑戦して多くの人と出会った。どの経験も出会いも、私に新しい考え方や学びを与えてくれて、人生の支えになるものばかりだった。
新しい世界を避けて無難に過ごしていた以前の私のままでは得られなかったものばかりだと思う。
就職してからも「あれもこれもやってみたい」と思うことは多いけれど、特に仕事に関することは一度手を出してしまえば責任が伴うものも多い。つい挑戦をためらってしまうことが増えてきた。
カンボジアのツアーへの参加を決めたときの「えいや」という気持ちを思い出して、勇気を持って未知の世界に足を踏み出せる私でありたい。