あなたのふるさとはどんな場所?
そう言われた時、胸を張り、自慢の場所と答えられる人でありたい。
「なんにもない、ただの田舎です」
正直。そう言う人は多い。
私もそう思う1人であった。
考えに転機が訪れたのは大学生になり、旅に出た中のひと夏のことである。
山の上に住んでいる私は不便さを嘆き、地元に誇りを持てずにいた
私は幼稚園の頃からバス通学。山の上に住んでいるから友達と遊ぶには一人で帰れない。だから母の迎えを呼ばなくてはならない。
小学校にある公衆電話からテレホンカードを使い、「もしもしお母さん?今日どんちゃんの家に遊びに行くから18時に迎えにきて欲しい!じゃあね!」と何度かけた事だろう。
職員室の横の風景を今でも笑っちゃうくらい鮮明に覚えている。ほら、古びたみどりが禿げかけている色まで思い出してきた。
高校生になっても母による送り迎えが続いた。
幼稚園から数えて早13年だ。
あーあ自分1人では移動できないし、親に迷惑もかけちゃうし、なんていいながら地元の不便さを嘆き、地元に誇りを持てなかった。
青臭い生意気少女。
名所がない地域での旅作り。地域の魅力は、人の魅力だと確信した
そんな私も大学生になり、旅を始めた。
2年生の夏休み、島根県のゲストハウスに住み込み、ツアーを作る企画に参加した。なにもない場所だからこそ、0から旅行ツアーを作って欲しいと観光協会に言われたのだ。
人生の教科書となる転機の旅である。
それまでの観光は、観光地に行くことが当たり前。入っているサークルも旅行サークルだったからこそ、行く先の目当ては観光地や食べたいもの決めて旅することしかしたことがなかった。
観光地に行かない旅は初めてだ。
正直私たちも、名所がない場所のツアー作りに頭を悩ませていた。
どうしたらこの地域に訪れたくなるのだろう?
そんな簡単に答えが出るわけもなく、テーマも決まらない日々が続いた。
そんな風に数日を過ごしていたからこそ気づいたことがある。
ゲストハウスのオーナーの優しさである。
見ず知らずの大学生を受け入れ、さらに毎日3食作り、BBQやスイカ割りなど企画して楽しませてくれる……。
え、私たちがツアー作る側なのに楽しませてもらってばかりいる。優しさをもらってばかりなのだ。
日が経つにつれて地域の人との交流も増えた。
家で作っている漬物や編み物を貰ったり、浜辺で地域の魅力について住民の人に突然話しかけて聞いていたら、漁船組合まで話を持っていってもらって力になってくれる人もいた。
この経験を通して確信した。
地域の魅力は、人の魅力そのものだと。
旅行ツアーのテーマは全員一致で、「人のあたたかさ」に決まった。
そこに住む人そのものがふるさとの魅力。同じ人は1人としていない
何か名所があったらいいのかもしれない。
でも何かないからといって魅力がないと感じるのは違う。それ以上にあたたかい人や面白い人、ちょっと頑固な人で不器用な人、でもなんだかふと優しい人がいるではないか。
私はこの旅を通して、人生にとって大切な、同じ人は1人としていない人の魅力と学びを得た。
私のふるさとには名所はない。名物もない。
13年間感じたように交通は不便と言い切れる。
でも、誰にも負けない自慢の父と母と弟と、大切な友人がいる大好きな場所である。
ふるさとには自分を大切にしてくれる人がいる。それこそが1番の魅力。
ふるさとについてこの話で何が分かったかといえば何もわからないだろう。家族の送り迎えのエピソードだけじゃないかと突っ込まれたらそうだよと答える。
ふるさとを誇るのに名所はいらない。
自慢するような話もいらない。
そこに住む人そのものがふるさと1番の魅力である。
そんなことがふるさとに自信が持てない人へ届き、13年間送り迎えをしてくれた今は離れて暮らす両親に「ふるさとの自慢そのものは、あなたたちです」と届けば、それでいい。