女の子であることを強制されているようで、苦しかった

茶髪の内側にはピンクのインナーカラー。
出かける前につける香水のパッケージはピンク。
パソコンの向こうにはピンクの筆箱。
部屋にはピンクがたくさんある。
自分の周りにはこんなにもピンクで溢れている。

今までの自分からは想像もできない。
ピンクに囲まれた生活。
小さい頃はピンクが大嫌いだった。それは自分の中で「ピンク=女の子」のイメージが強すぎたから。周りから女の子であることを強制されているようで苦しかった。

近所のお姉さんから貰うおさがりは、全部女の子らしい服だった。
フリルの付いたスカート、リボンの付いたシャツ。
家族や友人達は「かわいい」と言うけれど、私はずっと違和感を持っていた。
男の子になりたいと思った事はないが、兄が着ている青や緑の服が羨ましかった。

同級生の意地悪な小言は、カッコよい彼の耳には届かなかった

学生時代は、さらに現実を突き付けられる。
制服のスカート。嫌でも自分は女の子なのだと意識する。
友人とお揃いのリュックやキーホルダーも女の子らしいモチーフ。
女の子でいることを恥じた事はないが、剥き出しの素足には抵抗があった。

高校のクラスメイトにピンク色が好きな男の子がいた。
その子は、何も恥じることなく堂々としていた。
授業中に「好きな色のペンを使っていい」と先生が言えば、迷わずピンクを手に取る子だった。周りの男の子が黒や青を取る中で。
その堂々とした姿がカッコよかった。
おまけにピアノも上手で言葉遣いも綺麗。
年頃の男の子だから、意地悪を言う同級生だって少なくはないけれど、そんな小言は彼の耳には届かなかった。
彼の良いところを挙げるとキリがない程に、私にとっては男女の偏見を沢山覆してくれた人。多くの人は「女の子っぽい」と一括りにするのかもしれないけれど、決して女の子らしいというわけではなかった。
重たい荷物運びも、男の子特有のノリにも参加する子だった。

彼のお陰で、自分の好きに素直になってもいいと知った

誰に何と言われようが自分の「好き」を突き通すことができる人間は、いつの時代もかっこいい。同級生だが、人生で初めて尊敬した人は彼かもしれない。
こんなにも彼を褒めていると、恋をしているみたいだけれど、間違いなく尊敬に値する人間。

彼のお陰で、自分も自分の好きに素直になっても良いのだと知った。
家では空気を読んで選んできた赤い歯ブラシやピンクのコップ。
堂々と緑や青を選ぶようになった。
私はそれを使っている自分が好き。
「好きな色は?」というありきたりな質問に「緑!」と即答するようになった。
今までだって隠していたわけではないけれど、周りの女の子と違う回答は少し時間が必要だった。

ピンクが嫌いだから女の子じゃないなんてことない。
ピンクを着てなくたって女の子はみんなかわいい。
ピンクが好きな男の子が変だなんてことない。
ピンクを着こなす男の子はみんなかっこいい。

ピンクを一番好きになることは出来ないけれど、あの頃のように自分から遠ざかる必要も無くなった。