水色のランドセルは「おとこ色」?小学校の授業で先生に教わったこと
「おとこ色とおんな色ってなに?」
小学1年生の頃、道徳の授業で習った題材だ。
サバサバした中年女性の担任が「みんなは『おとこ色』と『おんな色』と言われて何色が浮かびますか?」と元気よく私たちに問いかけた。
ついこの間まで幼稚園生だった私たちは口々に「『おとこ色』って青やない?」「ウチのランドセルの色は赤やけん、赤は『おんな色』やと思う!」と自由気ままに発言した。
担任は更に問いかける。
「みんな教えてくれてありがとう! じゃあ、さっき配ったプリントの『おとこ色』と『おんな色』って書いてあるそれぞれの枠の中を、自分の思い浮かぶ色鉛筆で塗ってみましょうか! できれば持ってる色鉛筆は全部使ってください」
私たちは元気よく「はーい!」と手を挙げて了承した。
先ほど挙がっていた青や赤の色鉛筆を手に取り、「おとこ色」と「おんな色」の枠を塗っていく。
次は紫や緑を「おとこ色」、ピンクやオレンジを「おんな色」といった具合に塗り分けていった。今振り返ると寒色や中間色は「おとこ色」、暖色は「おんな色」というイメージを持っていたようだった。
そこで1人の女の子が手を挙げた。
「先生! ウチのランドセル、水色っちゃけど『おとこ色』やったとかいな?」
水色の色鉛筆を手に持ち、「おとこ色」の枠を塗ろうとした私の手が止まった。
見渡すと私と同じように呆気にとられるクラスメイトが、みんな手を止めて顔を上げていた。
担任は「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりの満面の笑みで、「実はね、『おとこ色』と『おんな色』ってものはありません!」と言いながら、両手のひらをみんなに向けて「ない!」というジェスチャーをした。
何度も言うが、ついこの間まで幼稚園生だった私たちは「えー!!」と口を揃えてケラケラ笑った。
恐らくこの後、先生は分かりやすく多様性について教えてくれたのだと思うが、なんせ18年ほど前の話なので、肝心なそこの記憶は残っていない。
ただ、各々が持つ「おとこ色」と「おんな色」のイメージを再認識させるという切り口で、「実はそんなものない」と教えられたのが未だに私の中でユニークで、感慨深いものとして根強く残っている。
その教えが無意識のうちに私が抵抗なく寒色や中間色を手に取る後押しになっていたのだが。
モテる子はピンクを身につけている。手帳をピンクにしてみた
大学生の頃、女子大ということも起因して(と言うと「偏見だ!」と誰かに怒られそうだが)周りは彼氏持ちのキャピキャピした人がたくさんいた。
入学当初、彼氏がいなかった私は、いつも彼女たちに「いいね〜」なんて言いながら羨ましがっていた。
大学2年生になった頃、他大学からの合コンの誘いで、毎週末飲みの場に繰り出していた私は、あることに気づいてしまった。彼氏持ちの子、あるいは男性にモテる子は、いわゆる「おんな色」に分類されるピンクを身につけがちだったのだ。
よくアイドルグループでも戦隊ものでも、メンバーカラーというものが振り分けられるが、寒色や中間色を好んで身につける「冷静キャラ」の私に対し、ピンクを好んで身につける「姫キャラ」の子のほうが圧倒的にモテるのだ。
それに気づいた時、ここに来てまさか「おんな色」の概念に惑わされるのかと愕然とした。
気づいたら私は、自分にないものを持っている彼女たちに「いいね〜」だけでは済ませられなくなっていた。
「ここはいっちょ、『いいね~』と思う存在になろうではないか」
そう心に誓い、手始めにスケジュール帳をピンクに変えてみた。なんだか「おんな色」という恋愛成就のお守りを携帯している気分になり、どことなく足取りが軽くなった気がした。
「もっと可愛い色の服を」と彼。「おんな色」の呪縛を感じた
そうこうしているうちに彼氏ができたのだが、付き合い始めて1年過ぎた頃には「もうお守りに頼らなくていい」という謎の安心感を元に、「おんな色」という恋愛成就のお守りを手放していた。それと同時に「女性性を保つ」ことも疎かになっていたのかもしれない。
ある日、彼から「もっとさ、アイドルグループの子みたいに可愛い色の服着たほうがいいんじゃない?」と言われてしまった。
彼の発言は、私に「女性性」を求めるとともに、健気で愛嬌のある可愛らしい彼女でいてほしいと言っているように受け取れてしまった。なんだか今の私を否定されているような気がして、咄嗟に「私はアイドルやねぇったい!」と言い返した。
言われてみれば確かに「おんな色」を手放してからは、無意識だが付き合う以前のように寒色や中間色ばかり身につけていた。
そんな彼とは数年前にお別れしたのだが、別れたと同時に「おんな色」の呪縛から解き放たれた気がした。
以前より個人の好みの服装に対して世の中が寛容になり、パーソナルカラーといったその人の生まれ持った身体の色や雰囲気に調和する色が知られ始めた昨今。
自分が心地よいと思える色がきっと「あなた色」なのだ。
「誰かに媚びたい」と「自分をこう見せたい」は、似て非なるものだ。自分をブランディングするために自分で首を絞めてしまっては本末転倒だ。
そんなことを自分に言い聞かせながら、私は「おとこ色」と「おんな色」を駆使して「わたし色」を見つけていこうと思う。