「実は彼女いるんだ」
一時間半の長電話の末に元恋人から告げられた一言に、浮つく気持ちが一気に突き落とされた。
私に会いに行くねって言ってくれたのはなぜ?
かわいいって言ってくれたのはなぜ?
今度こそ幸せにしてくれるかも。そんな期待は粉々にされた
一年前の春。私は大学に入学し、5歳年上の元恋人が就職したことをきっかけにどちらともなく連絡を取り始めた。
「アイコンの写真かわいいね」
「ずっと会いたいと思ってた」
「車買ったら会いに行くから待っててね」
彼から送られてくる言葉たちに、どうしても止まったはずの私たちの時間が動き始めることを期待せずにはいられなかった。
前に付き合っていた時は、彼が私の前に付き合っていた人と温泉に行っていたことがつらくて別れてしまった。今度こそは幸せにしてくれるかもしれない。
そんな期待はすぐに粉々にされた。
「声が聞きたい」
突然送られてきたラインに胸が躍る。通話を始めて一時間半。お互いの新生活の話をしてたくさん笑って、とにかく楽しかった。けれど。
「実は彼女いるんだ」
意味がわからない。あんなに甘い言葉を送ってきておいて他に彼女がいる?これじゃ私、人の彼氏を横取りする女みたいじゃん。
一瞬で駆け巡る思考に、彼の言い訳は一つも頭に入ってこない。私は通話を切った。
幸せな記憶ばかり思い出し、決断できない私に声をかけてくれたのは
「君のことが気になっていました。嫌な思いをさせてしまったけどこれからも連絡をとってくれたら嬉しいです」
翌朝届いたLINE。返事をしてはいけないとわかってはいるけれど。1人ではどうしても決断ができなかった。
そんな私を見ていたのは、大学でできたばかりの友達。
「辛いと思うけど、既読つけないで消しな」
震える手で、私は彼との繋がりをこの手で切った。
それからしばらく私は、彼にされたいやなことはすっかり忘れて、何故だか付き合っていた時の幸せな記憶ばかり思い出してしまっていた。だから、彼に告白してもらったみなとみらいには近寄れなくなってしまったし、初デートが花火大会だったから、花火を見るのも嫌になってしまった。
日常の小さな出来事でどうしても彼のことを思い出してしまう。こんな思いをするなら、一番になれなくても続けていればよかったのかなあ。
決断の背中を押してくれた友達と、糸を切った私がいたから
あれから、ちょうど1年が経った。今、私は人生で一番幸せだ。あのとき背中を押してくれた友達は、何でも話せて気が合う大切な存在になった。
そしてとても素敵な恋人ができた。入学した時に私に一目惚れをしてくれたらしい。
彼は、私が自分で可愛いと思わないところも好きでいてくれて、常に心配症で追い込まれがちな私に気の抜き方を教えてくれる。好きな人の一番好きな人でいれることがうれしいと泣いてしまった私に、彼の好きな人が私だけなのは当たり前のことなのだということも教えてくれた。幸せだから涙が溢れるなんて歌詞みたいなこと、わたしには無縁だと思ってた。
思えば、5歳上のあの人と付き合っていた時、つらくて切なくて何度涙を流したのだろう。HYの「366日」を聞いて涙を流す日々を終わらせてくれたのは、今の恋人。こんなに素敵な人と付き合えているのはあのときしっかり5歳年上の彼との関係を切れたから。
この決断の背中を押してくれた友達と、震えながらも糸を切った一年前の私がいたから、今の私は、人生で一番幸せだと、心の底から言える。