とあるフォームに住所、メールアドレス、電話番号といった個人情報を次々と入力する。それらを入力し終わった後、今度は身長と体重を入力する。
その後、カメラロールの写真をスクロールしながら、一番顔が盛れている写真を探す。盛れた写真を見つけた後、今度は一番スタイル良く見える全身写真を探す。そして、見つけた写真をアップロードし入力していく。
まるで自分をスマートフォンの向こうの世界に送り込むように。

グラビアアイドルに応募をしたきっかけは、いじめだった

いつの間にか1時間程過ぎていた。
そして、私は「送ろうか」「やめておこうか」「いやいや、ここまで書いたのなら送るべきだ」と悶々と悩み、結果、震える手で送信ボタンを押した。数々の私を構成する入力内容が画面に吸い込まれていく。
私はたった今、グラビアアイドルに応募した。

私がグラビアアイドルに応募をしたきっかけは、いじめだった。
私は大学時代にとある部活に入っていた。入部当初は先輩や同期と円満に過ごしていたものの、ある先輩の一声でいじめのターゲットに決まった。
その先輩は執拗に私を「デブ」「太っていて醜い」とこき下ろした。鍵のついていないSNSで何度も体型を叩かれた。
また、その先輩はいわゆる「逆らうとめんどくさい事になる先輩」で定評があったため、他の部員もその先輩と同じように私の体型をいじった。胸、おしり、太もも、身体のあらゆるパーツをからかわれた。中には「自分は華奢である」ということのアピールのために私を引き合いに出す部員もいた。

どうせなら公の場で、私が太っていて醜いか判断してもらおう

私自身は一般的に見て太っていないと思っていた。体重は標準体重より軽い。また、筋トレをしてきた分、体重は重くても、服が着れないほど膨れていたわけではなかった。
しかし、他の部員は私より細かった。体のサイズが一回り小さかった。私だけまるで巨人である。
皆からの体型いじりが続く度に自信が失われていく。「太っていないのにどうして?」から「私は太っている」と自己認識が変わっていった。私は、このままではまずいと感じた。

ある先輩の呟きにより、皆が私を「太っている女」扱いをしている。今まで太っていると言われたことがないのに。服にも生活にも特段支障はなかったのに。
1人で考え込むうちにだんだん悔しくなった。そして、どうせなら公の場で私が太っている体型で醜いかそうでないか判断してもらおうと思った。
体型を公の場で出して様々な批評をもらう仕事、それはグラビアアイドルである。

私が応募をしたグラビアアイドルの事務所は、いわばグラビアアイドルの専門事務所だ。私が応募をしたところは、グラマーで女性らしい顔立ちのグラビアアイドルが多く所属しているところだった。
青年誌を飾る健康的な女性より、大人の雑誌の表紙を飾る肉感的な女性が多い。名前を聞いたことがある有名なグラビアアイドルもいた。

事務所の人の言葉はお世辞かもしれない。でも、とても嬉しかった

そのグラビアアイドルは語っていた。
「胸が大きいことがコンプレックスだったが、グラビアアイドルの仕事を通して自分に自信を持てた」と。
そのグラビアアイドルは自身の体型をよりアピールするポーズをして、私たちに笑顔を向けていた。
現に今の私は様々な体のパーツを執拗にいじられている。周りと比べて平均的ではない体型というだけで、どうしてここまで言われなければならないのか。
悔しい。私も強くなりたい。変わりたい。バカにしてきた人達を見返したい。いつの間にかオーディションのページを開いていた。

オーディションの結果、書類審査を通過した。事務所のスタッフからメールと電話で連絡が来た。そして、やり取りをする度にこのような言葉をもらった。
「次の審査に出てくれないか?」
「あなたは逸材だ」
もしかしたら、お世辞かもしれない。エントリー数が少なくて必死なのかもしれない。でも、とても嬉しかった。今いる狭い部活の世界ではなくてグラビアアイドルの世界、いわばもっと広い世間一般では、私は醜くない体型であることがわかった。
事務所の人の言葉は、これまで部活でもらってきた悪口を全て払拭するくらい影響力があった。プロの目線から見て、私は醜くない体型である。

私は背筋を伸ばし、体型がわかるタイトな服に変えていった

その言葉以来、私は猫背だった背をしゃんと伸ばして体型を隠す服から、ニットやタイトスカートなど体型を出す服に変えていった。部活の人が何を言っても、以前よりダメージは受けなくなった。むしろ、部活以外の友人からは今の服装が好きだと褒められた。強迫観念で行いかけていた筋トレも、自分磨きの筋トレに切り替わっていった。

でも、そもそも醜い体型って何だろうか。今思えば、いじめの主犯である先輩は私が嫌いだから「デブ」扱いしたのだろう。仲が良かったら、体型のことはそもそもいじらないように思う。
彼女のその発言は感情的で、根拠の無いものだった。他者にくだらないものさしを使われて振り回される自分が情けなかった。同時に、体型いじりをする人をますます苦手になった。

ちなみに、グラビアアイドルのオーディションの次の審査は思い切ってお断りした。学業と折り合いがつかないという、やむを得ない理由だ。だからほんの少し後悔が残る。
もしお断りしていなかったら私はどうなっていたのだろうか。コンビニで私たちにほほ笑みかける彼女らを見て、時折そう思う。