嫌なことが消えない夜をやり過ごす「薬」を見つけた
生きていると、「嫌なこと」に直面する。
「嫌なこと」とは、自分の未熟さに羞恥心を感じたり、人間同士が分かり合えないことを理解してしまったり、他人の気楽な悪意で尊厳を傷つけられたりすることだ。
それらは、私の脳を惑わせて、飯をまずくさせ、部屋を汚くさせ、そして、夜の私から睡眠を奪う。
目をつむると、その日の「嫌なこと」が勝手に浮かび上がる。布団にくるまって小声で歌を歌ってみても、逆に大声を出してみても消えない。
水を飲んでみる。ミルクティーはカロリーが怖い。チョコレートはもっとダメ。友達へのメッセージも、たぶん返ってこない。もう夜の2時になるし。
まあでも、四半世紀生きて、一人暮らしも4年目に入ると、こういう夜をやりすごす「薬」をもう見つけていたりする。
漫画を読み終わるまでは、人生のボーナスタイム
私の頭の中には「嫌なこと」があった時のための、「全巻読みたい漫画リスト」がある。未だ読んだことはないけれど、表紙をみて「私好みだな」と思った漫画をストックしている。
あまり重くない方がいい。「デビルマン」とかはもっと体調が万全な時に読みたい。
全15巻のギャグマンガを電子書籍で購入する。これだけでずいぶん救われた。この15冊を読み終わるまでは人生のボーナスタイムみたいだ。
ダウンロードが終わり次第、1巻を読み始める。漫画って基本的に娯楽だから、「楽しませてもらいましょうか」と腕を組んだ受け身のスタンスでもいいのが楽だ。
「私って漫画が薬なんだなあ」と思ったのは、新卒1年目の研修中のこと。入社して早々なぜか地方に1か月泊まり込みの研修に連れていかれ、慣れない環境もあって「嫌なこと」がいくつも重なった。
その時、気を紛らわせるようにして漫画アプリを開き、読み放題キャンペーンで読んだ「医龍」が信じられないほどおもしろく、「嫌なこと」を読んでいる間は忘れられた。
思えば昔……、小学2年生の時、歯医者の待合室で読んだ「名探偵コナン」以降、私は「漫画」と名の付くものなら何でも読んだ。学習漫画もOK。新聞の4コマ漫画も見逃さない。ポストに投函される冊子状になっている広告漫画で、初めて「風呂に入って漫画を読む」ことが許された。
朝の5時。嫌なことは引っ込んで漫画のキャラが頭の中で動いていた
今でこそ好きな漫画、面白そうな漫画と、タイトルを選んで読んでいるが、幼いころは「漫画=おもしろい」と思っていたし、実際どんな漫画も楽しめた。
初めて出会うキャラクターたちが、どんな考えでもって、どんな行動をするのか。それを追いかけるのが、楽しくてたまらない。
電気をつけて漫画を読んでいたから、カーテンの向こうが明るくなったのに気づかなかった。電気を消して、スマートフォンの明かりだけで漫画を読み続ける。
小さい画面で漫画を読むたびに、早く大きな画面で読めるデバイスを買おうと毎回思う。そう思いながら、スマートフォンでダウンロードした電子書籍は1000冊を超えた。その99%が漫画だ。
時計を見ると朝の5時だ。もう疲れ果てて、眠れないわけがない。
スマートフォンの電源を消して、目をつむる。「嫌なこと」は奥の方に引っ込んで、さっきまで読んでいた漫画のキャラクターたちが、私の頭の中で自由に動いていた。