わたしの仕事は、本を売って、文章を書いて、読むこと、と書いてどこまで正しいのかわからなくなってくる。
勤務先は、本屋さん。接客したり本にカバーをかけてお金をもらう。
あまり高い給与ではない。
今の仕事は、本が好き、ただそれだけの理由で選んだ。採用してもらえた時は飛んで喜んだ。
実際に店舗で働いている以外に、わたしは「ゲラ読み」という作業をしている。
ゲラ読みは、版元さんや著者さんに直に意見が届くまたとない機会
これは書店員になる前からやってみたくて、いろんな小説を読んでいるうちに知った仕事。わたしが書店員への憧れを抱いたのも、元は本の中の主人公たちだった。
ゲラ読みは、出版前か、目玉の作品の原稿を出版社さんにいただいて読む仕事。感想を書いてお送りする。
本を読むのが仕事なんて!とわたしは目をキラキラさせていた。
実際やってみると、思っていたよりも依頼をいただけて嬉しい。版元さんや著者さんに直に意見が届くなんてまたとない機会。今まで送ってきたファンレターより実感がある。
ただ気になることもあった。
多くは電子書籍でいただくこと。本は絶対紙派なわたしには不慣れでならない。
しかも電子書籍のダウンロード期限もあるし、発売前のものなら出版する前に感想が欲しいということだからこちらもそれまでに読み切れるよう頑張りたい。
調子に乗ってゲラを頂きすぎるとパニックになるし、自分の趣味の本は読めなくなる。
これは自宅で読むので、給与も出ない。
当たり前のようだけれど、切羽詰まって、自分の好みのジャンルでないゲラが集中した時にはとても恨めしい。
アウトプットは、お金にならなくても働く自分を支える必要なもの
ゲラの感想を書くのとも繋がるけれど、文章を書くこと。アウトプット。
本が好きなのは昔からで、でも高校くらいからちょっと難しいテーマの小説や、新書などを読むとこころが詰まってくることに気がついた。
そこで初めは日記をつけた。
ちょっとした感想や、引用。後から見返してもなかなか面白い。
次にSNSに記録してみた。これは続かなかった。
その後、本屋さんで働くようになってゲラのお返事を書くようになった。
今はこうしてサイトにエッセイの投稿なんかしてみてしまっている。
どれもお金になっていないけど、働く自分に必要というか、働く自分を支えるというか、そんな面があると思っている。
こんな感じで、わたしは今、仕事と趣味の線引きが自分でできないでいる。
子供の頃は「好きなことを仕事にできるのは一握り」なんて言い聞かせられて育って、好きを仕事にするのはすごい贅沢で恵まれたことだと思っていた。
今のわたしは好きと仕事の間で迷子になっているような気がする。
給与をもらえる分だけ働けばいい。
というか今も店舗にいない時間は趣味というか遊びのようなものなのに、ふと休んでない感覚に襲われることがある。
お店に立つだけならゲラは読まなくていいし、うまい感想を書くために人の書評をリサーチしたりしなくていい。
読みたい本を好きなだけ買って、休みの日はカフェで本を読むなり神保町に休みのたびに繰り出したりすればいい。
働くことと、もらう金額はイコールでなくていい。好きだから頑張れる
わたしはこころのどこかで、自分の好きになった本が売れて欲しい、という思いがあるんだと思う。
お勧めの本に日の目を見て欲しいんだと思う。
コミックや雑誌がよく売れる中で文芸書の面白さを届けたいなと思う。
もちろんできることには限りがあると思う。それにどうやればいいのかあまりピンとこない。
けれど、本の虫にもっと出会いたい。
わたしも、売れている本は読んでみたい。そうなると好みのものばかり読んでいるわけにはいかなくなる。
でも今みんなはどんな本が読みたいのかな、なんて勝手に考えてみる。
そこから出版業界の明るみが見えてくるような気もする。
わたしが困ることは、自分の働いている本屋さんが消えること。自分の読むための本が世界から消えること。
これは割とリアルな問題だと思っている。
「出版業界の危機」。とにかくよく聞くことば。
そんなことにならないために、わたしは自分のために給与以上に頑張りたい。
働くことともらう金額はイコールでなくていい。
ひとまずお金にとにかく困っているわけではないのだから大丈夫。
好きだからきっと頑張れるかなと思って、今日も本を売って、文章を読んで書いている。