愛しいあの人を思って、怒られるのが怖くって、明日の学校や仕事が憂鬱で。
世の中、眠れない理由なんて千差万別。山の様にあると思う。
多分、このサイトに投稿されるエッセイの大半は何処かドラマチックで狂おしい、眠れない理由があるのだろう。
果たして、私には眠れない夜などあるのだろうか。

主観としてはないことはないのだが、まだ実家に住んでいた当時、寝れない寝れないと愚痴をこぼす私に母は笑ってこう言っていた。
「寝れない寝れないって言ってるけど、あんたそう言ってる30分後には寝てるわよ」
そんな健康優良児な私である。
そんな私に眠れない夜など存在するのか。
これは、そんな私のたいして深刻ではない『眠れない夜の話』である。
箸休め程度に読んでほしい。

すぐに経過する30分。暇さえあればソシャゲを周回していた

私の眠れない理由、それはズバリ『ソシャゲ』だ。
ソシャゲ、ソーシャルゲーム。
無料でダウンロードが出来て、RPGに恋愛にパズルに音ゲーに、多種多様、様々なコンテンツが山の様にある。
ゲームといえばコンシューマー(家庭用の買い切りの有料ゲーム)が常識だった私にとって、初めてスマホを買い与えられた時、その天国の様なシステムに私はあっという間に夢中になった。

当時の私はRPGが大好きで、家庭用ゲームのスマホ版新シリーズやオリジナルのスマホRPGを4つも5つも掛け持ちしていた。
重厚なストーリーに爽快なバトルシステム、可愛くてカッコいいキャラクターたち。
一度始めれば、デイリーミッションを達成するだけで30分は余裕で経過する。
授業中や就寝前、暇さえあれば私はソシャゲを周回していた。

そんな生活を2年程過ごした頃だろうか、贔屓にしていたソシャゲが一つサービス終了を発表した。イベントが開催されないなど数ヶ月前から兆候はあったが、発表があってからほんの数ヶ月でそのゲームは呆気なく終了してしまった。
大量に散りばめられた伏線は回収されることもなく、『オレたちの冒険はこれからだ!』的なよくある連載漫画の打ち切りみたいな展開で、物語は締め括られた。アプリにログインも出来なくなって、これまで集めてきたカードも育ててきたキャラクターも一切見ることが出来なくなった。

いくらゲームシステムやストーリーが素晴らしくても、私に刺さっても、集金が出来なければソシャゲは直ぐに終了してしまう。
大量にかけた時間が全て水泡に帰したことで、私のソシャゲへの情熱はスッと冷めた。

コロナでやることがなくなった私は、またソシャゲを始めた

大学を卒業し、そんなソシャゲ漬けだった毎日からも遠ざかって随分経った。
バイトに演劇にと忙しくしていた私には時間泥棒のソシャゲなんてする暇もなく、スマホの中にはログインされなくなって随分経ったソシャゲ達が容量だけを圧迫していた。
しかし、そんな状況が一変する事態が起こる。
コロナだ。
新型コロナウィルスの大流行で、東京は一時騒然とした。
人流は制限され、不要不急の外出は控えるように盛んに喧伝された。
公演は中止が相次いだし、大型商業施設勤めだった私はバイト先も休館し、ぽっかりと二ヶ月近い休みが舞い込んできた。

最初のうちは喜んでいた休暇も、次第にやることが無くなってくる。
ご贔屓のYouTubeチャンネルは見切ってしまったし、テレビは代わり映えのしない報道ばかりだ。本でも読もうと思っても図書館は休館してしまっている。
やることが無くなった……。
頭を抱える私の目に留まったのは、スマホの中にいくつもあるソシャゲ達だった。
久々にログインしてみるか……そう思ってアプリをタップしかけ、いや待てと思い留まる。夢中でプレイしたソシャゲがサ終したあの徒労感を思い出したのだ。
しかし、ここでソシャゲをやらないとして、この退屈に満ちた時間をどうやって潰すんだ……。

サ終を考えダウンロードしたパズルゲームに簡単にのめり込んだ

私は葛藤に葛藤を重ねて、一つの妥協案にたどり着いた。
そうだ、ストーリー物をプレイするから、サ終した時の虚脱感が凄まじいのだ。
ストーリーがないパズル系のゲームなら、そんなことはないんじゃないのか?
そう閃いた私は、当時Twitterの広告によく登場していたパズルゲームをダウンロードした。

果たしてそのパズルゲームはよく出来ていた。
簡単すぎず難し過ぎない難易度、そしてさして深くもないが絶妙に読んでしまう短いストーリー、可愛らしいアイテムの多い箱庭要素。
ステイホームの暇つぶしのつもりが、私はすっかりそのパズルゲームにのめり込んでしまった。

黙々とパズルを解いていると、いつのまにか3、40分が経過している。
これは楽しい!とやり込むうちに、私は一つの落とし穴に嵌まっていた。
それは体力ゲージだ。
通常そのパズルゲームでは、体力を1消費してパズルに挑む。
課題をクリア出来なければその体力は没収で、クリアすると体力消費無く次のステージに進める。通常5がMAXの体力は全部使い切ってしまうと全回復までに暫く時間がかかる。だから通常であれば連勝が続かない限り、そんなに時間を持っていかれることは無い筈なのだ。
しかし、このゲームには憎い仕掛けがある。
イベントやログインボーナスで不意に現れる◯時間無限体力ループという仕掛けだ。
無限ループの間はプレイし放題。

ゲームしたくなるのはベッドに入った後。何度も白んだ空を拝んだ

勿体ない精神に引きずられてプレイし続けたら、いつの間にかイベントの達成目標をクリアして、更に◯時間無限ループが追加される……。
クリア出来ても出来なくてもアドレナリンが出続けるのか、その間は時間も忘れて熱中してしまうのだ。
最高で半日程度、そのループにハマって潰した事がある。
しかも大体、そうやってゲームがしたくなるのはベッドに入った後で、何度も白んだ空を拝んだものだ。

ステイホームでバイト先が休館している間は良かった。
いくら夜更かししても誰にも迷惑をかける事なく、昼間っから惰眠を貪ればいいのだから。
しかし、東京の緊急事態宣言は解除され、ゆっくりとだが確実に元の日常に戻りつつある。
そんな中で、私のパズルゲーブームは去ったかというと未だに継続中だ。
夜、眠る前にゲームを起動してうっかり無限ループにハマってしまったことが幾度となくある。
なんなら実は、それが原因でバイトを寝坊で遅刻したこともある。

朝、スマホに表示された画面が既に就業開始時刻だった時には背中に嫌な汗が伝った。
あんな経験二度とごめんだ……と思うのに、私は今日も深夜にソシャゲに興じてしまう。

そんな私の眠れない夜の理由。