真夜中に思い出す、つらい記憶や未来への心配が離れない

深夜2時。スマホの画面を見た。目がさえている。静まり返った隣の部屋からは、家族の寝息が聞こえてきた。
私はどことなく、夜に飲み込まれそうなどんよりした気持ちになりながら、「はあ……」とため息をついた。

真夜中になると思い出す、つらい記憶。思い出したくない後悔。
誰かに傷つけられたこと、傷つけたこと。成功と挫折。喜びと苦しみ。希望と現実。取り返せない過去と、先の見えない未来の心配ばかりが浮かんでくる。ネガティブな思考回路が渦巻いて、ねばりついたみたいに離れない。
私の頭はモヤモヤとぐるぐるでいっぱいになり、寝付けそうになかった。苦しかった。泣きたかった。誰かにすがりつきたかった。
理由はよく分からないけれど、とにかくつらくて眠れない。そういう夜を経験した人は、私だけではないだろう。

しかし、こういう状況でも、冷静さを失っていない自分がいた。
私はとりあえず布団から出て、深呼吸をした。ヨガやストレッチもしてみた。安眠音楽をかけてみたり、絵を描いてみたりもした。
我ながらいい判断だと思う。気持ちが少し楽になってきたので、私は布団にもぐりこみ、目を閉じて羊を数えた。しかし、それでも寝付ける気配はない。

友人のやさしさに救われた、苦しいけれど温かい夜のひととき

2時半。さらに時が過ぎて3時半。さすがにきつい。私はもう最後の手段と思い、友人にLINEをしてみた。電話をかけるのはさすがに気が引けたので、「もし起こしたらごめん。寝れないんだ」と送信してから、数件のメッセージを入れた。

すると驚いたことに、LINEにはすぐさま既読がついた。
私はまさか友人が起きていると思わなかったので、びっくりした。同時に申し訳なくなり、すぐに「起こしちゃった?」とメッセージを入れたが、「ううん。話があるなら聞くよ」と優しい返事が返ってきた。
私は友人の了承をとってから、通話ボタンを押した。こんな真夜中に誰かと電話をするなんて、初めてのことだった。
「本当に今いいの?」「明日早くから予定あったりしない?」と、何度も念押しをした。

私は友人の声が聞こえてきたとき、心細さがぬぐわれた安堵感で泣き出してしまった。そして思い出したつらい過去のことや、将来の不安を友人に打ち明けた。
友人はわかるよ、と相槌を打ちながら、「私にも似たような経験があるんだ。だから〇〇の話も、他人事じゃないの。寝 れそうになるまで話そうよ」と言ってくれた。
私は友人の過去の話を聞いて、つらいことを抱えて生きている人間は、世の中たくさんいるんだなと思った。ひとりじゃない。それだけで救われた気分だった。

空が薄く明るくなり始め、私は心地よい眠気を感じた。今なら寝れそうだった。
「ありがとう。でもごめん、朝になっちゃったね」と私が言うと、友人は「いいんだよ。私も話せてよかった。またいつでも話そう」と言ってくれた。その言葉がとても嬉しかった。
私は通話を切ってすぐに寝落ちし、昼近くまでぐっすりと眠った。
友人のやさしさに救われた、苦しいけれど温かい夜だった。