平等、平等と謳われるこの時代で、本当に平等だったことなんて何一つないと思う。

パニックになった弟を見て笑う皆。大人に言っても理解してもらえず

小学生の頃、私の弟は特別学級に通っていた。
弟はパニックになると手をつけられなくなった。自分で自分を力いっぱい殴ったり、周りを攻撃したり。小学生になっても意思疎通が難しかったから、私はいつもヒヤヒヤしていた。
それでも小学校低学年までは平和だった気がする。
何か起こっても、誰かが私の教室まで呼びに来てくれたので、そのたび私は走った。

弟が叩いた子にごめんねと謝りに行く。
弟のパニックを落ち着かせる。
そんなこと、どうってことなかった。だって弟が泣いてて、その理由が分かるのは小学校で私しかいない。そしたら私がなだめればいい。そんなふうに思っていた。

何かがかわり出したのは、私たち姉弟が高学年になってからだ。
クラスにはカーストが出来て、いじめが横行した。私の学年は特に荒れていて、教室は無秩序だった。
そしてそのターゲットは弟になった。
弟をわざと挑発し、パニックになった弟を笑う。それだけでも私は本当に許せなかった。
おとなに相談しても、
「まだみんな小学生だから分からないのよ」
なんて言う。
は?障害が理解出来ないから仕方ない?
何言ってんだコイツ。それがいじめていい理由になるわけないだろ。そんな正論を言ったところで、誰も見向きもしてくれなかった。

弟は悪くないのに謝る母に当たった私。母は「ごめんね」と言った

パニックになった弟に叩かれると、ソイツらは親に言いつけ、私の母親に連絡がいった。
その度に母親は頭を下げにその子の家まで行った。
私と弟は車の中で待っていた。
弟はただならぬ雰囲気を感じているのか、とても怯えていたのを覚えている。
遠くでお母さんがいじめっ子のお母さんに頭を下げている。その横で面倒くさそうに母親の後ろに隠れているアイツ。
許せなくて悔しくて泣きたくなった。

帰ってきた家の中、しーんとする部屋で私はついに母親に当たってしまった。

「なんで謝んの!?弟悪くないやん!!!!アイツらがけしかけたんだよ!?なんで謝んの!!!!」

悔しくて悔しくて。吐き出すことができなかった思いが溢れ出した。
母親もそうだよね、おかしいよねって一緒に怒ってくれると思ってた。
だけど一通り怒って母親の顔を見た時、私は言ってはいけないことを言ったんだと理解した。
「……ごめんね」

母は眉を八の字にして謝ったのだ。
……なんで?なんでお母さんが謝るのよ。
お母さんなにも悪くないじゃん。弟だって何も悪くない。挑発したアイツらが悪いってその場にいた私が1番わかってる。それなのに……。
そんな顔の母親にもう何も言うことができず、私は自分の部屋にこもった。

こみ上げてくるどうしようもない怒り。この世界の不平等さを知った

夜、2段ベットの下から弟の寝息が聞こえてきても、私は眠ることが出来なかった。
悔しくて悔しくて、お母さんにあんな顔をさせた自分が一番許せなくて泣きたかったけど、泣いたら負けな気がして意地でも泣かなかった。その代わりに、ふつふつとどうしようもない怒りで全く眠れない。

泣き疲れて眠る弟、今も家事をしているであろう母親。
その2人を考えるだけで胸が締め付けられた。

この世界は不平等だ。
どれだけ平等平等と舌触りのいい言葉を並べても、みんな実際に起こっていることを見ると見て見ぬふりをする。そんな現実見たくないから。
弱い立場の人達がじっと我慢するしかないのだ。

どうすればいい?ひと晩中、幼い頭で考えた。
そして朝方、ひとつの結論を導き出した。
強くなろう。
弱いままじゃ大切な人たちを守れない。
強くなろう。力じゃ男に勝てない。なら知識で。知識をつければきっと守れる。
それから私は必死に勉強を始めた。

嘆くだけじゃ大切な人を守れない。もう泣き寝入りするだけの私は嫌

あれから10年以上が経った。
弟は普通に仕事に行き、母親はやっと育児に一区切りついたようでホッとした表情をしている。
私はといえば公務員になって、どんな時でも不利にならないために法律や制度を勉強する毎日だ。
2人がこのまま平穏な日々を暮らせるように。
何かあった時守れるように。

もうあの頃のなにも力を持たず、泣き寝入りするだけの私じゃない。
不平等を嘆いていても、大切な人を守ることは出来ないから。
もうあの2段ベットの上で声を押し殺して、布団を被る私には戻らない。