2019年12月初め、新型コロナウイルス感染症が中国の武漢市で初めて確認されてから、早2年と半月以上が経過した。

「中国では大変な事態が起きているけど大丈夫なのかな、なんか怖いから早く収まるといいけど……」
と、その当時の私はどこか他人事のように、中国で発生した未知の感染症の終息を祈っていた。
その頃の私は、まさかその感染症が世界中に広がるなんて、日本でも毎日感染者が発表されているなんて、2年以上経ってもその感染症の終息のめどは立っていないなんて、思いもしていないだろう。

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一人暮らしの私は、起きてから自宅を出るまでの約1時間、毎日朝の情報番組を流し見ながら出社の支度をしている。服を着替えたり、化粧をしたりしている間にもテレビからは政治やスポーツにエンタメ、そしてコロナウイルス関連のニュースを読み上げるアナウンサーの声が聞こえる。

私が服を着替えている途中で、日本全国のコロナウイルス新規感染者数と累計感染者数が読み上げられた。
自分の住む街でも、昨日は900人ほど新規の感染者が出たらしい。死亡者数もその後、読み上げられた。私はコロナウイルスにまだ感染したことがないけれど、毎日自分の住む街で約1000人もの感染者が出ているという事実に、漠然とした不安な気持ちに襲われた。
そして、アナウンサーが「引き続き手洗いや手指の消毒、マスクを必ず身に着けたうえで、人との距離を取りましょう」と、ソーシャルディスタンスを呼び掛けた。
この2年半の間で耳にタコができるくらいこの言葉を聞いた。それ以前は“ソーシャルディスタンス”なんて言葉すら聞いたことなかったのに。

私が不安な気持ちを引きずったまま化粧をしていると、ニュースからはコロナ禍で職を失ってしまった人や、休業や時短営業要請を強いられた飲食店のオーナーが取材されている映像が流れてきた。

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コロナ禍で職を失ってしまった男性は、デリバリーサービスの仕事をしながらなんとか生計を立てていると話していたし、飲食店のオーナーは仕入れた食材の行く末や、いつまで続くか分からない政府からの要請に、途方に暮れたような表情で取材を受けていた。
私は幸い、コロナウイルスの影響で職を失ったり、休業の要請を受けたりすることは無かったけれど、こんなに途方に暮れた人たちが他にもたくさんいると思うと胸がぎゅうと締め付けられ、何とも言えない息苦しい気持ちになった。

私はどちらかというと、色々な情報に影響されやすい性格かもしれない。
だから、毎朝流れる情報番組の報道に気持ちを左右されて、嬉しいニュースを目にしたときは明るい気持ちで出社できる日もあるけど、今日のように苦しい気持ちで出社する日もある。最近の私は後者ばかりかもしれない。
約3年前は冬の寒い時期にしか身に着けていなかったマスクは、今や生活必需品。外出する前に必ずマスクをはめて、私は家を出て会社に向かった。

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次の日の朝、私はいつものように情報番組を流しながら朝の支度をしていた。
服を着替えていると、テレビからはコロナ禍での楽しみについて、街の人々に取材をしている風景が流れてきた。

――コロナ禍で増えた楽しみは何ですか?
街の人々は、家族や友人に気軽に会えなくなってしまったことに対して不満を抱きながらも、自宅での映画鑑賞を楽しんだり、インテリアへのこだわりが強まったりしたことなど話していて、私はそれをふむふむ、と聞いていた。

年配の女性がインタビューされる映像に切り替わり、その女性はこう言った。
「行きつけのお店が休業中だけど、そこがお弁当を販売しているから、それをテイクアウトするのが最近の楽しみですね」
その女性はマスク越しでも笑っているのが伝わってくるくらい笑顔で、そのインタビューに答えていた。きっとそれくらいお気に入りのお店なんだろうなぁ。

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昨日コロナウイルス関連の暗い報道を聞いて、それに影響されていた私だけど、コロナ禍でも楽しみを見つけている人たちのインタビューを見て、またそれに影響されて少しだけ明るい気持ちになれた。
大幅なインテリアの変更は難しいかもしれないけど、小さなオブジェを飾ったりすることなら私にもできそうだ!

私がどこかのお店のテイクアウトを利用することで、休業を強いられてしまった飲食店の力になれるならやってみたい!
さっそく私はその日の帰り道、電車の中で、自宅でも飾れそうな小さなオブジェをインターネットで検索しながら帰宅した。手には職場近くの飲食店でテイクアウトしたお弁当を携えて。いつもは自炊をしている私だけど、飲食店でテイクアウトしたお弁当を食べると思うと、なんだか帰宅途中の気分も上がった。

良くも悪くも影響されがちな私。連日続くコロナ禍の報道で気分の浮き沈みもより激しくなってしまったかもしれないけれど、明るいニュースも暗いニュースも、もっとフラットな気持ちで情報を取り入れたい。そして、それを自分なりに取捨選択しながらニュースとこれからも付き合っていけたらいいなと思いながら、私はテイクアウトのお弁当を頬張った。
出来立てを持ち帰ったお弁当はほんのり温かくて、心まで温かくなった気がした。