2年前、20歳そこそこの大学生をしていた私は、一回りも歳が離れた大人にホテルに連れ込まれた。
自分がどのくらいお酒を飲めるのかも知らずに、美味しいよと渡されたお酒をただただ飲んだ。

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気づくと、手を繋がれ、相手が泊まっていたホテルのエレベーターの中で、何十階だろうかと考えた。上に上に上がった。そのまま手を引かれ部屋に入り、椅子に座らされ、気づくと相手の顔が目の前にあった。
熱を帯びていた体はだんだんと底冷えして、目の前の状況についていけなかった。それでも、逃げなきゃと思って部屋をなんとか飛び出した。

その夜は、何故か「怖い」よりも、ただただ落ち込みが酷かった。気持ち悪いが勝った。
社会で活躍している大先輩の話を聞いて、私もこうなりたいと純粋に慕って尊敬していた人だった。自分が女であると、こんな形で認識したくなかった。
精神的に裏切られたのは私だけで、相手はなんとも思っていないのだろう。裏切られた、という表現も、きっと自分にしか感じ取れない気持ちなんでしょ。
私はその日、1人の女性として消費された気がした。何かあたたかい気持ちを失った。

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周りの同い年の友達には相談できなかった。自分の不注意でもあるから。自分の非を認めたようで、悔しかった。自分を守れるのは自分だけなのに、守ってあげられなかったから。
同時に、40歳の大人はみんなこうなのかもしれない可能性を考え、常に信用しきれない、疑わなければいけないことも悲しかった。自分のやりたいことに共感してくれて、一緒に一つの目標に向かって取り組んでいたと思っていたから。
唯一、相談できたのは、バリキャリで自分の道を自分で切り開いてる社会人の女性だった。
「みんなそういうことは経験していくから、ちゃんと自分のことは自分で守れるようにならないといけないね」
みんな「こういうこと」を経験しなくちゃいけない社会なの?これから自分が出ていくであろう社会に嫌悪感を抱いた。

それから、私の恋愛は変わった。
「付き合う」となると、そういうことしなきゃいけないんだとしたら、あの夜のことがフラッシュバックしてしまう。当分、恋愛なんてできないや。自分の中の「女」を殺したくて、長かった髪の毛をベリーショートに切った。自分を守る鎧が欲しくなった。

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2年後、だんだんと伸びてきた髪の毛に少しの懐かしさと、昔のように女の子らしく見える自分を鏡ごしに見ては、お守りのように赤リップを塗る日々。
最近になって、やっと、やっと。好きな人ができた、好きな人が恋人になった。嬉しくてたまらなかった。

お泊まりをした日。それまでは何とも無かったのに、自分の中に好きな人が入ってきて、目の前で男になる瞬間を見て、どうして2年前のことが今自分の頭の中をいっぱいにするんだ、出ていけ、今目の前にいるのは好きな人であってあの大人じゃない、幸せなはずなのに、どうしてこんなにも気持ち悪いと感じてしまうんだろう。
好きなのに、好きな人とのセックスを受け入れられない自分が嫌で嫌でしょうがない。何も気持ち良くない、この時間は何なんだろ。
きっと彼からしたらこれから一緒に幸せな時間を過ごすはずだったのに、「ごめん、今日は帰りたい。雨降ってるし、駅まで送らなくて大丈夫だよ」。彼がたばこを吸いに行ったタイミングで、私は彼の家をあとにした。

ごめんね、大好きだよ、あなたのせいじゃない、私のせいなんだけど、どうしても自分には地獄の時間にしかならなかった。ベッド脇に無造作に置かれた、使用済みのコンドームを見て悲しくなった。
それでも、私は好きな人といるために今日も地獄の時間を過ごす。好きな人との幸せを優先した私は、2年経った今日も自分を守ってあげられない。