私は最近、とあるゲームに熱中している。その名も「ウマ娘プリティーダービー」だ。
このゲームは実在する、もしくは実在していた競走馬を少女に擬人化して育成していくゲームである。このゲームの特徴は一人一人のキャラクターに試練や挫折を乗り越えていく物語が与えられていることだ。
キャラクターへの深い愛情が感じられる。また、キャラクター同士の関わり合いも共に楽しめる大変魅力的な作品である。

同時に、私は大学院で特別支援教育や発達障害について研究中だ。毎日が勉強の日々であり、発達障害について考えない日は一日も無い。そのため、どうしてもキャラクターの特性やキャラクター同士の関係性、特にどうしてあのキャラクターとキャラクターが仲が良いのかなどについてつい考えてしまう。

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勉強し始めの素人目線かつ、企業側もそのような意図を持って設定した性格ではないと思うが、やはり多種多様なキャラクターを見ていると、どうしても特性が強いキャラクターたちに目がいってしまう。
個性付けをしていくことによって、特性に近いような性格が強まることは当たり前と言えば当たり前だ。でも、特性の強さ弱さ、また特性の有無は私にとって問題ではない。私は特性の強いキャラクターが多いウマ娘の世界にインクルーシブ教育、そしてインクルーシブ社会を育てるヒントがあるのではないかと思っている。

私はウマ娘のゲームを進めていく中で、多くの疑問がわいてきた。
特性が強いキャラクターたちが、どうしてあんなにのびのびと学校生活を送ることが出来るのだろうか。どうして自分らしく輝けるのだろうか。
また、フィクションの世界ではあるが、現実世界に取り入れられるものは取り入れていけたら良いなとまで思ってしまった。私なりにウマ娘のキャラクターが育つ環境の良いポイントを考えてみた。

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一つ目にトレーナー(ちなみに私たちゲームプレイヤーはトレーナーの役をする)との強い信頼関係である。
トレーナーは企業でいう指導者かつ相談役、言わばメンターのような立場である。そして育成するキャラクターにとって信頼出来る話し相手でもある。

辛いことがあっても傾聴してそばにいてくれる、無償の愛を与えてくれる大人がいたら、きっと子どもはより安心して学校生活を送れるだろう。また、キャラクターにとって何でも言うことを聞くサンドバッグのような役割ではなく、間違った時は時に温かくも厳しく導いてくれる頼りになる存在だ。学校という狭い世界において、広く豊かな視野からサポートをしてくれるのだ。

また、ウマ娘のキャラクターは一部を除いて寮生活をしている。寮生活は基本、キャラクター同士の相部屋だ。そして驚くことにどのペアも気の合う(ウマが合う)仲間同士だ。どの人とどの人が相性が良いか、お互いに高めあえるか見極める力は、クラス編成などグループ作りの際にぜひ欲しいが、相当の観察眼がなければなかなか手に入れられないだろう。

二つ目に、一人一人の個性にあった走り方や種目を選べること、またその個性や種目をお互いに尊重し合っていることである。
私はゲームを進めていく中で、キャラクター一人一人に得意なものと不得意なものが明確にあることに驚いた。そして、キャラクター一人一人が自分のやりたいやり方、もしくは向いているやり方で大会に出場していく。
このあり方は、どうやって学校現場に取り入れれば良いのだろうか。平均的な人間を作り上げることに特化している現在の環境ではやはり難しいのか。文系クラスと理系クラス、進学クラスと特別進学クラスに分けること、また個人個人にあった進路指導が限界であろうか。
ウマ娘の世界のように、「自分にはこれだ」と思えるものを子どもたちが見つけるにはどうすれば良いのか。

三つ目に、一人一人の個性を尊重する校風だろうか。
ウマ娘のゲーム内に出てくるキャラクター同士のやり取りを見ていると、どのキャラクターにも長所があり、どのキャラクターにもツッコミどころ(個性)がある。ゲームを進めていくと、それらの個性に対して、長所はお互いにたたえ合い、個性に関しては相互理解もしくは必要以上に干渉しないようにしていると感じた。
今の学校現場は評価が画一的である。もっと評価すべき箇所があっても良いと思う。お互いの良いところが見えやすい学校の環境作りはどうすれば良いのか。成績が良い、運動神経が良い、発言力がある、容姿が良い、コンクール入賞など目に見えるものだけを評価しがちな現状に、人の内面やあり方を尊重して認め合うことも加われば更にお互いの良いところが見えてくるのではないのか。

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ちなみに私のお気に入りのキャラクターは、競走馬として走ることの他、アイドルとしてパフォーマンスをし、周りを笑顔にして楽しませることにも力を注いでいる。特に彼女のエピソードを読めば読む度、走るだけではない自分だけの取り組みに試行錯誤したり挑戦したりできる寛容な環境がトレセン学園(ウマ娘の学校)にあることを実感している。

ウマ娘は大学院の勉強の息抜きに始めたが、思わぬ所でインクルーシブ社会について考えるきっかけとなった。
特性の強い子どもに対してどのように接することがベストか、ゲーム内でヒントを貰うことも少なくない。仮想世界と現実世界の混同は良くないと言われている世の中だが、たとえ理想郷だとしても現実世界が良くなるヒントであれば積極的に取り入れれば良いのではないかと思っている。そして、取り入れ続けた結果、子どもたち一人一人が自分の夢に向かって全力で走っていける環境作りをめざしている。