高校生の頃、人生唯一の親友と出会った。地元の進学校に入学して、初めて出会った隣町の中学出身のあの子。

わたしは地元の公立ヤンキー中学出身で、いわゆる「ぼっち」。誰かとお昼ご飯を食べた経験もないくらい、本物の「ぼっち」だった。
唯一の救いは、中学校では一番勉強ができたこと。金髪に染めて、先生に反抗する勇気もなかったわたしは、勉強で心を守っていた。
でもこれではいけない、と一念発起して、高校に入ってからは、なるべく人に話しかけよう、と、毎日ドキドキしていた。

「おはよう」勇気を出して話しかけたあの子とは奇跡的にウマが合った

「おはよう」
これだけで鳴り止まない心臓。

そんなわたしが、勇気を出して話しかけたのが、あの子。
わたしは、名簿も席も離れているこの子にだって話しかけることができるんだから……!
心臓は鳴っていた。
あの子は、優しかった。「○○中出身なのー!?ヤンチャじゃん!」って。
ヤンチャなのは周りだけで、わたしはぼっちだったのだけれど、あの子は、○○中出身のわたしを受け入れてくれた高校最初の友達だった。

あの子とは、奇跡的にウマが合った。少女漫画誌のなかで、とりわけりぼんを愛読していたところ。瀬尾まいこの『幸福な食卓』に涙を流したこと。恋や性に興味津々だけれど、実行する勇気がないところ。数学よりも古典が好きなところ。
いろんなことが、まるで示し合わせたかのように同じだった。

「おはよう」
心臓をバクバクさせなくても言えるなんて、初めてだった。
毎日一緒だった。毎日一緒にお昼ご飯を食べて、毎日メールして、定期テストは点数を競い合って、毎日くだらないことで笑って……。

でも、わたしはやっぱり、「ぼっち」だった。
わたしが「ぼっち」だったのは、多分、金髪に染めていなかったからでも、先生に反抗する勇気がなかったからでもない。わたしが自分を守ることに必死すぎて、気づけば周りから人がいなくなっていただけだった。

勉強で心を守ってきた私。1番のあの子の存在は心をしんどくさせた

わたしは中学校ではクラスで1番の成績だった。でも、高校に入ってからは2番だった。
あの子がいたから。
あの子はわたしよりも、いつもどの教科でも5点高いのだ。たった5点。この5点が、わたしは恐ろしかった。勉強でしか心を守ってきていなかった16歳のわたしは、それ以外に自分を守る術を知らなかった。

だんだん、あの子といるのがしんどくなっていった。あの子といると、わたしは自分を守れない。あの子といると勉強の話ばかりするようになった。
羅生門の話。模試の話。日本史をとるか、世界史をとるかの話。
あの子はいつもニコニコ聞いてくれたし、全部に誠意を持って答えてくれた。それがまたしんどかった。このニコニコしている友人は、わたしより5点高いのだ!

だんだん、別の子と行動をするようになっていった。
「おはよう。」に、心臓をバクバクさせるようになっていった。
わたしより5点高い成績の女の子。どうしておはようと、笑顔で言えただろうか?わたし自身を守るすべを失ってしまうかもしれないのに?

くだらない理由で話せなくなったあの子。つい言い訳を考えてしまう

あの子は優しかった。急に素っ気なくなったわたしを咎めるなんてしないで、他の子と仲良くするようになっていって、お昼ご飯も2人きりで食べることはなくなっていった。

高校2年生になって、わたしは日本史クラス、あの子は世界史クラスになった。それ以来、一言も喋っていない。

本当に、高校1年生のわたしたちは、親友だった。親友だったのに、わたしは、人生初めての親友よりも、自分を守るすべの方をとってしまったのだ。

今ならわかる。わたしを守る方法は両手から溢れるほどにある。
でも、親友はもういない。
どうしてあんなくだらない理由で、わたしはあの子と離れてしまったんだろう。
でも、わたしは日本史をとって、あの子は世界史をとった。ひょっとすると、別にウマが合っていたわけではない?
そうやって自分に言い訳をする。
あの子がいたから輝いていた高校1年生の頃。あの頃以来、おはようの言い方がわからない。