「彼女のこと、知ってる?」
今年の衣替えをしようとしていた頃、突然中学校の同級生から、連絡が来た。
私の心はざわついた。急にどうしたんだろう。
「彼女、亡くなったんだ」
その予感は当たった。

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彼女は、脳腫瘍を9歳の頃から患っていて、10年間闘病生活を送り、19歳という若さで亡くなった。
私は、このことを聞いても、彼女が亡くなったことに実感が持てず、いろんな想いが交差しながら、ただ呆然としていた。

そんな中、彼女のお葬式に参列した。
お葬式場に着いても、まだまだ実感できなかった。
「お正月にまたねって言ったのに。病気のこと、何も知らなかったよ。次会うのがお葬式だなんて……」
彼女の従兄弟のスピーチを聞いて、彼女が亡くなったことを実感した。涙が溢れて、止まらなかった。
「病気が憎いです。彼女のトレードマークだった、ロングの黒髪はいつも僕が乾かしてたんです。抗がん剤治療のために、その髪の毛をバッサリ切った時、僕は涙が止まりませんでした。2回脳出血を起こして手術をした時も、治療中も、ずっと家族にも弱音を吐かず、頑張っていたんです」
彼女のお父さんの言葉にさらに涙が溢れた。

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私は、彼女とは中学生の頃、同じ部活だった。中学3年生のときは、同じクラスでもあった。
中学生の頃、たくさん一緒にいた。学校の日も、休みの日も、たくさん遊んで、たくさん話した。バカみたいにお互いの体に絵の具で落書きしまくったり、好きな漫画の貸し借りしたり、恋バナしたり、修学旅行一緒の班になったり、夏休みはグループのみんなに内緒にして二人で待ち合わせして毎日部活に行ったり……たくさん楽しかった思い出がある。

だけど、当時彼女からの強い言葉にも悩んでいた。彼女から、強く弄られたり、ばかにされたり、見下されていた。そのことは、嫌だなと感じていた。
中学3年生の頃、私は先生や学校の雰囲気が合わず、学校を休みがちになった。そんなとき、学校を休むたびに、彼女からこんなLINEが来た。
彼女から見た、「彩葉のこんなところが嫌い」と羅列された長文のメッセージ、最後にどうせずる休みだろ、一人になりたくないから学校に来てほしいと書いてあった。
このメッセージがとても怖かった。そして、激しい自己嫌悪に襲われた。
また、彼女が私の悪口を学校で言っているのを聞いてしまった時、彼女から弁解の長文のメッセージが送られてきた。
私は彼女のことがよくわからなくなり、人を信じられなくなった。

私は母親から不登校になることを許してもらえなかった。たまに休むことだけ許してもらえた。
学校に行くのは怖い。でも、休むと彼女からラインLINEが送られてくるのが怖い。
また、当時、家族仲も悪く、家族が家にいる時間に家にいることが辛かった。そんな状態で、精神的に追い詰められて、私はまともに人と話せなくなった。そして、人と話せず、学校を休みがちな私に彼女は愛想を尽かして、学校にいる時、私から離れていった。

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中学校を卒業して、彼女とは別々の高校に進学した。大体、テストが終わる頃に連絡を取り合って、電話したり、遊びに行ったりと関係性は続いた。

高校2年生の頃、彼女とではなく、中学校の同じ部活だった子と3人で遊びに行った。そのことをSNSで知った彼女は、なんで誘ってくれないのと怒った。
LINEで喧嘩した。私は、この時できるだけ喧嘩を終わらせようと、自分の意見を言わなかった。そして、なんでいつも私だけ我慢しないといけないんだろうって思った。

そして、この喧嘩のあと、髪の毛がショートカットになった彼女と会った。少し肌寒く、もう少しで桜が咲く頃だった。
その日、私は彼女と会うのを最後にしようと決めた。連絡手段も全部ブロックした。

そして、2年後の桜が散り、少し暑くなり始めた頃、彼女と再会した。
最後に見た彼女の顔からは、顔面麻痺でトレードマークの笑顔が消えていた。色黒だった肌も白くなっていた。

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たくさん後悔した。なんで喧嘩した時、腹を割って話さなかったのだろうか、もっと自分の気持ちを伝えておけば良かった、彼女の気持ちを聞いておけば良かった、会いたい、話したい。そんな気持ちでいっぱいになった。今更こんなことを考える私は偽善者かもしれない。

また同時に、中学生の頃、傷ついた想いも忘れたくないとも思った。

彼女は病気だったから、人一倍寂しがり屋だったのかもしれない。闘病生活を10年頑張っていた彼女にとって、精神的な理由で学校を休む私は許せなかったのかもしれない。今となっては、もう誰にもわからないことを考える。
彼女と過ごした学校や公園、ショッピングセンターを見る度、彼女を思い出す。

私の好きな漫画にあったこの言葉。
「それが大切な思い出なら忘れちゃダメです……。人は死んだら、人の思い出の中でしか生きられないんですから……」(「名探偵コナン」37巻より)

今は、まだ彼女のことを思い出すと辛くなる。いろんな想いが交差して、複雑な気持ちになる。私はたくさん傷ついた中学時代の記憶を失くしたかった。でも、いまはあの時傷ついたことも楽しかったことも抱きしめて、大切にしたい。この言葉を胸に私は彼女のことを忘れずに生きていきたい。

ごめんね。ありがとう。