とある金曜日の仕事終わり。
会社を出てみると天気が良かった。
おまけに次の日から土日がやって来る。
気分が良くなった私は、好きな曲を聴きながら歩いて帰宅することにした。

◎          ◎

帰路には時折、街頭アンケートをしている方を見かける。
時間があるときには協力しているのだが、その日も例外ではなかった。

40~50歳前後の女性が話しかけてきた。
「ちょっといいかしら」
そこから彼女は名乗ることも目的を言うこともなく、話し始めたのである。
「おいくつ?」
「貴方は結婚しているの?」
「子供はいらっしゃる?」
「女性の幸せは、結婚して子供を産んで家庭を持つことだと思うの」
「仕事なさってる?仕事だけでは幸せな生活は出来ないと思うの」

読者の方々、今一度思い出して欲しい。
この女性は"名乗らず"、"目的を言わず"、話し始めたことを。
にもかかわらず、機関銃の如く初対面の女性の考えをぶつけられた私は、好きな曲を遮られ、歩いて帰宅するという選択を後悔するほど、 最悪な週末(もはや終末)を迎えたのである。

◎          ◎

言うことを言って満足したのか、相手は私の回答を待っているようだった。
「20代後半です」
「結婚はしていません」
「子供はいません」
「仕事はしています」
女性が微笑みながら頷いている。
「うんうん、それで?」

え、続き待ってるのかよ……腹立つなあ……。
その顔を見ているとだんだん腹が立ってきたのだ。
もはや良い気分は何処へやら。
冷静に冷静に冷静に……。
私は続けて回答をすることにした。

「そもそもこれ、何のアンケートですか?名乗ることもせず、説明もなしになんですか?
女性の幸せ=結婚だと本気で思ってます?
女性の社会進出やキャリアアップが推進されているのに、時代錯誤過ぎませんか?
仕事で充実していても結婚していないと幸せになれないんですか?
私、今普通に充実した生活を送ってますけど。考え方古すぎませんか?
人生の選択肢に必ずしも結婚や出産があるとは思いません。考え方アップデートしたらどうですか?
そもそも結婚のメリットを教えてくださいよ」

◎          ◎

……どっちが機関銃か分からないほどに早口で捲し立て、女性が次の言葉を放つ前に私はダッシュで逃走した。
この出来事のせいで"ライフスタイルの多様性"といっても、言葉だけが先行していて、 全員が全員、その考えに追いついていないのだな、と思った。

上の世代の方々で尊敬している方も多くいるし、上の世代の方が全員このような考えをお持ちとは思っていない。
ただ、来年30歳を迎える私は、最近どこに行ってもこの手の話がついて回るようになっていて、話題に出すのはやはり上の世代なのだ。
同世代や下の世代からこの話題が出ることは殆どないが、この話題になるときは必ずといっていいほど「結婚、出産ってうんざりするほど聞かれません?」といった内容である。

上の世代からしたらコミュニケーションの一環なのかもしれないが、 こちらからしたら新手のハラスメントといっても過言ではないと思う。
いや、多様性を上の世代に押し付けるのもハラスメントなのか……?
もはや訳の分からないハラスメント連鎖が出来そうだ。

結婚や出産というライフイベントが悪いわけではないし、それが幸せに繋がらないと言っているわけではない。
ただ、結婚や出産がなくても、幸せには暮らせるというのも事実である。

冷たいことを言うようだが、その時が来たらするんだから放っておいてくれ、現状を貴方に話したところでどうなるの?というのが、下の世代である一個人の私としての本心である。